恋愛日和〜真逆の二人が惹かれ合うまで〜

「あー、ゴホン。そろそろいいかな?」

後ろから聞こえてきた声に、二人で振り返る。

「お父さん!いつからいたのよ?お母さんも」

えっ!と日向は慌てて立ち上がった。

「約束の時間だから下りて来たんだけど、何やら肩寄せ合って楽しそうだから、声かけそびれてな」
「ほんとよ。なんだかラブラブで、お母さんときめいちゃった」

えっ……と両手で頬を押さえる日和の隣で、日向は姿勢を正す。

「初めまして、佐野日向と申します。本日はお時間を頂戴しまして、ありがとうございます」
「初めまして、日和の父と母です。こちらこそ、今日はありがとうございます。立ち話もアレだし、ラウンジへ行きましょうか」
「はい」

4人でロビーラウンジに行き、コーヒーをひと口飲んでから日向が切り出した。

「本日はお二人にお許しをいただきたく、お疲れのところ無理を申しました。私は日和さんと真剣におつき合いをさせていただいています。東京で日和さんがどんな生活を送っているか、お二人はご心配の事と思います。私は職場で日和さんと常に行動を共にしてきました。彼女の真っ直ぐでひたむきに努力を惜しまないところ、謙虚で素直な人柄に惹かれて交際を申し込みました。これから少しずつ二人の時間を重ね、絆を深めていきたいと思っております。どんな交際相手なのかご心配かと思いまして、今回ご挨拶の機会をいただきました。日和さんを心から大切にします。どうかおつき合いをお許しいただけないでしょうか?よろしくお願いいたします」

日向が頭を下げると、「まあ!」と日和の母が感激の面持ちで胸に手を当てる。

「なんて素敵なの!こんなにかっこいい方が、こんなにかっこいいセリフを!もうドラマのワンシーンみたい。ね?お父さん」
「母さん、ちょっと落ち着いて」
「落ち着いてなんかいられないわ。ああ、日和。あなた本当に幸せ者ね。こんなふうに言ってくれる男性、お母さんの憧れだったのよ。夢のようね。私達の時なんてお父さんもうガチガチで、結局お母さんが『結婚するの』って言うしかなかったのよ」
「母さん、その話はもういいじゃないか」
「だから今、お母さん胸がキュンキュンしちゃった。はあ、うっとり。それで?結婚式はいつ頃なの?」

……は?と、日向も日和も目をしばたたかせた。

「いえ、あの。まずはおつき合いのお許しをいただきたく……」
「そんなのもう、どうぞどうぞ。日和、佐野さんに愛想つかされないようにね。こんな素敵な方、絶対他にはいないから」

興奮気味の母親の隣で、父親も頷く。

「確かに。もう非の打ちどころがないな。佐野さん、ふつつかな娘ですが、どうぞ末永くよろしくお願いいたします」
「こちらこそ。日和さんを生涯かけて必ず幸せにいたします。どうぞよろしくお願いいたします」

きゃー!と、母親はまた頬を手で押さえた。

「はあ、なんて素敵なの。もうお母さん、お肌がつやつやしそう。ね、やっぱり結婚式は春がいいの?」

え?と日向は首をひねる。

「日和、憧れてたでしょ?春に結婚式を挙げて、綺麗な桜の下で写真を撮りたいって。披露宴ではピンクのカラードレスを着たいって」
「お母さん、そんな。子どもの頃の話でしょ?」
「でも毎年桜の季節を楽しみにしてるじゃない。せっかくだから、夢を叶えてもらったら?佐野さんさえよければ」
「そんな、あの。まだそういう話は……」

戸惑いながら母親の言葉を止めようとする日和に、日向が尋ねた。

「日和の夢だったの?桜の咲く頃に結婚式をって」
「えっと、はい。子どもの時にそう思ってました。だけどそんな単純な理由では決められないですよね。それに、その。まだそこまでの話にもなってないですし……」
「いや。日和の夢、叶えよう」

えっ?と日和は顔を上げる。

「それって……?」
「人生でたった一度の結婚式なんだ。日和の子どもの頃からの夢だったんだろう?俺が叶える。でなければ、日和と結婚する資格はない」

まあ!と、日和より先に母親が驚いて目を見開いた。

「な、なんてかっこいいの。お母さん、惚れちゃいそう」
「母さん!」
「だって女性の理想よ?こんなこと言ってくれる男性。ああ、日和。もう今すぐ結婚しなさい!」
「だから桜の季節にって言ってるだろう?母さん、少しは冷静に……」

二人で揉めたあと、両親は揃って日向に頭を下げる。

「佐野さん、本当にありがとうございます。日和はあなたといれば必ず幸せになれる、そう感じました。まだまだ未熟者で、至らないことばかりかと思いますが、どうか娘をよろしくお願いいたします」
「とんでもない。私の方こそ日和さんに幸せにしてもらっています。お二人の分まで必ず私が日和さんをお守りし、幸せにいたします」

母親は目に涙を浮かべて日和に笑いかけた。

「日和、良かったわね。幸せになるのよ」
「お母さん……。お父さんも、ありがとう」

涙ぐむ日和に日向は優しく微笑み、テーブルの下でそっと日和の手を握った。