「ひよちゃん、これはどう?」

次の土曜日。
日向は日和と椿を車に乗せて、ショッピングモールにやって来た。
女子二人は早速買い物に夢中になる。

「このボルドーのワンピース、似合うと思うなー」
「つ、椿さん!それはだめです」
「どうして?ひよちゃん、せっかくナイスバディなんだから」
「だめですって!」

店の前のベンチに座って待っていた日向は、何やら揉めている椿と日和に首を傾げる。
すると椿がふと顔を上げ、日向にワンピースを掲げて見せた。

「ね、日向。これひよちゃんに似合いそうよね?」
「はっ!?」

胸元も背中も深いVカット、スカートにも大胆にスリットが入っていて、おまけにノースリーブとくれば、とてもじゃないが日和には着せられない。

「だめに決まってるだろ!」
「どうしてよー。ね、ひよちゃん。試着だけでも……」
「だめったらだめ!」

日向はツカツカと歩み寄ると、日和の肩を抱いて別の店に向かった。

「残念ー。日向だってさ、あのワンピースを着たひよちゃん、見たかったでしょ?」

後ろで椿が話しかけてくるが、日向は真顔で首を振る。
本当は頭の中で想像してしまい、必死で己の理性と戦っているところだった。

「日和、これはどうだ?」

店頭のディスプレイに、ネイビーでふんわりした袖のフェミニンなワンピースが飾ってある店で日向は足を止める。

「わあ、可愛い!」
「じゃあ着てみてごらん」
「はい」

日和が試着室に行くと、椿がニヤニヤと笑いかけてきた。

「さっきのボルドーのワンピース、こっそり買っておいたら?俺の前でだけ着てくれよって」
「バカ!そんなことするかよ」
「どうして?大人っぽいひよちゃんが見られて、日向も嬉しいでしょ?」
「日和は今のままでいいんだ。無理に大人びたりしないで、可愛いままの日和で」

そう言うと椿は、へえー!と目を見張る。

「日向って、そんなに庇護欲強かったんだ。もっとドライな恋愛してるイメージだったわ」
「……日和にだけだ」
「うひゃ!ちょっと、なに?そんなノロケまで言うの?いやー、こんなに日向をメロメロにさせたひよちゃんってすごい!良かったわね、大好きなひよちゃんと両思いになれて。手放したりしちゃだめよ?」
「する訳がない」

その時、試着室からワンピースに着替えた日和が出て来た。
ネイビーのフォーマルさと、膝丈のスカートが軽やかに揺れるフェミニンさは、日和のイメージによく合っている。
スクエアネックから覗く綺麗な鎖骨とスッと伸びた美しい首筋も、上品でおしとやかな雰囲気を醸し出していた。

「日和、すごく可愛くて綺麗だ」
「ほんと?」
「ああ、よく似合ってる」

日和の手を取り、二人で鏡の前に立つと、日和ははにかんだ笑みを見せる。

「これなら日向さんの隣にいても、少しは釣り合うかな」
「は?何言ってんだ、日和。どういうこと?」
「だって、いつも気が引けてたから。日向さんはかっこ良くて大人なのに、子どもっぽい私が横に並ぶなんてって……」
「何をバカなことを。日和は俺の自慢の彼女だぞ?世界一可愛くて、誰よりも大切なんだ。ちゃんと俺のそばにいろ。分かったか?」

真剣に諭すと、日和は頬を赤らめて「はい」と頷いた。
よし、と頭を抱きかかえて髪にキスをする。
すると後ろで椿の声がした。

「ちょっとちょっとー!私がいること忘れてない?二人でラブラブワールドに行っちゃわないでよ」
「つ、椿さん!そんなことは……」
「ま、いいや。なんだかいいもの見せてもらったし。じゃあひよちゃん、ワンピースはそれで決まりね。靴とバッグは私が見繕ってあげる」
「はい!ありがとうございます」

日和は楽しそうに椿とあれこれ選び始めた。