「佐野さん、よろしくお願いします」
次の日。
仕事を終えると、日和は荷物を持って日向のデスクにやって来た。
「ああ。それじゃあ、行こうか」
「はい」
まだ残っているメンバーに挨拶してから、二人でオフィスを出る。
電車に揺られて日和のマンションの最寄り駅で降りると、日向は改札を出て大通りを少し進んだ。
「こっちだ。ほら、あそこ」
日向は、後ろでぐるぐるスマートフォンを回している日和を振り返る。
「え、あ、ほんとだ!こんなところに素敵なお花屋さん」
「いやいや、毎日通っててなんで気づかないんだ?」
「私、いつも反対の出口から帰ってました。ここを通るのは初めてです」
「反対って、北口から!?遠回りだろ」
「そうなんですか?」
唖然とする日向に構わず、日和は店頭の花に目を奪われている。
「どれも素敵ですね。お店の名前、なんて読むんだろう?」
『Fleur du bonheur』と書かれた看板を見上げる日和に、日向も顔を上げた。
「フルール ドゥ ボヌール。幸せの花って意味だな」
「そうなんですね。フランス語ですか?」
「ああ」
そんなことを話していると、以前と同じ若い女性スタッフが店の外に出て来た。
「いらっしゃいませ!先日お越しいただいたお客様ですね」
「ええ、そうです。あの時はありがとう。とても喜んでもらえました」
「そうでしたか。私も嬉しいです。ということは、あの……。こちらの方がお相手の?」
スタッフは控え目に日和を見ながら、日向に尋ねる。
「そうです」
「わあ!やっぱり。お会い出来て嬉しいです」
パッと顔を輝かせるスタッフに、日和は戸惑いつつ「初めまして」と挨拶した。
「初めまして、フローリストの川瀬と申します。先日、こちらのお客様にご来店いただき、フラワーアレンジメントをされる恋人のお話をうかがったんです。お誕生日だということで、アメリカンブルーの苗もおすすめしたら、喜んでくださって」
恋人と言われて「いや、あの」と手を差し出した日向に構わず、日和は「そうだったんですね!」と笑顔になる。
「アメリカンブルー、とても元気に育ってます。それで株分けをしようと思って、あの可愛らしいワンちゃんの陶器を買い足しに来ました」
「ええー、嬉しいです!あのあと色んな種類を入荷したんですよ。早速ご案内しますね」
「はい」
にこやかに店内に入る二人に、日向もついて行く。
片隅に、花の鉢を入れた陶器がたくさん並んでいた。
「ひゃー、可愛い!麦わら帽子の女の子がにっこりお花を抱えてる!こっちは、ちょうちょやてんとう虫がお花に遊びに来たみたい。夢いっぱいの世界ですね」
「ふふっ、そんなふうに言ってもらえるなんて、私も嬉しいです」
「どれにしようか迷っちゃう。ワンちゃんやウサギも、色んな表情がありますね」
「じゃあ、これとかどうですか?」
川瀬は奥にあった陶器を手にして日和に見せる。
女の子と男の子が向かい合ってチュッとキスをしているような可愛らしい陶器だった。
「ここに苗を入れると、ほら!お花が二人を祝福してるみたいになります」
「ほんとだ。可愛い!これにしようかな」
「ええ。お二人にお似合いかと思います」
横で聞いていた日向は顔を赤くするが、日和は無邪気に「じゃあ、これにします」と笑顔で言う。
「ありがとうございます。すぐにお包みしますね」
レジの横の広い作業スペースで、川瀬が陶器を丁寧に包む。
その様子を見守っていた日和が、ふと壁のチラシに目を向けた。
『フラワーアレンジメント教室
お花をご自分でアレンジしてみませんか?
贈り物や、ウエディングブーケにも……
お気軽にお尋ねください
フローリスト 川瀬 望美』
日和は、へえー、と興味深く眺める。
「フラワーアレンジメント教室なんてあるんですね」
川瀬は顔を上げて、照れたように笑った。
「そうなんです。そんなに大それたものではないですけどね。お花を買って行かれる方に、ちょっとここで作業していきませんか?みたいにお誘いしたら、割りと反響が良くて」
「そうなんですね。私も自己流だから、いつかちゃんと習いたいと思っていて。今度お願いしてもいいですか?」
「もちろんです!私もお客様と一緒にアレンジするのが好きなので。いつでもお待ちしていますね」
「はい!」
すっかり意気投合した様子の二人を、日向は微笑ましく見つめていた。
次の日。
仕事を終えると、日和は荷物を持って日向のデスクにやって来た。
「ああ。それじゃあ、行こうか」
「はい」
まだ残っているメンバーに挨拶してから、二人でオフィスを出る。
電車に揺られて日和のマンションの最寄り駅で降りると、日向は改札を出て大通りを少し進んだ。
「こっちだ。ほら、あそこ」
日向は、後ろでぐるぐるスマートフォンを回している日和を振り返る。
「え、あ、ほんとだ!こんなところに素敵なお花屋さん」
「いやいや、毎日通っててなんで気づかないんだ?」
「私、いつも反対の出口から帰ってました。ここを通るのは初めてです」
「反対って、北口から!?遠回りだろ」
「そうなんですか?」
唖然とする日向に構わず、日和は店頭の花に目を奪われている。
「どれも素敵ですね。お店の名前、なんて読むんだろう?」
『Fleur du bonheur』と書かれた看板を見上げる日和に、日向も顔を上げた。
「フルール ドゥ ボヌール。幸せの花って意味だな」
「そうなんですね。フランス語ですか?」
「ああ」
そんなことを話していると、以前と同じ若い女性スタッフが店の外に出て来た。
「いらっしゃいませ!先日お越しいただいたお客様ですね」
「ええ、そうです。あの時はありがとう。とても喜んでもらえました」
「そうでしたか。私も嬉しいです。ということは、あの……。こちらの方がお相手の?」
スタッフは控え目に日和を見ながら、日向に尋ねる。
「そうです」
「わあ!やっぱり。お会い出来て嬉しいです」
パッと顔を輝かせるスタッフに、日和は戸惑いつつ「初めまして」と挨拶した。
「初めまして、フローリストの川瀬と申します。先日、こちらのお客様にご来店いただき、フラワーアレンジメントをされる恋人のお話をうかがったんです。お誕生日だということで、アメリカンブルーの苗もおすすめしたら、喜んでくださって」
恋人と言われて「いや、あの」と手を差し出した日向に構わず、日和は「そうだったんですね!」と笑顔になる。
「アメリカンブルー、とても元気に育ってます。それで株分けをしようと思って、あの可愛らしいワンちゃんの陶器を買い足しに来ました」
「ええー、嬉しいです!あのあと色んな種類を入荷したんですよ。早速ご案内しますね」
「はい」
にこやかに店内に入る二人に、日向もついて行く。
片隅に、花の鉢を入れた陶器がたくさん並んでいた。
「ひゃー、可愛い!麦わら帽子の女の子がにっこりお花を抱えてる!こっちは、ちょうちょやてんとう虫がお花に遊びに来たみたい。夢いっぱいの世界ですね」
「ふふっ、そんなふうに言ってもらえるなんて、私も嬉しいです」
「どれにしようか迷っちゃう。ワンちゃんやウサギも、色んな表情がありますね」
「じゃあ、これとかどうですか?」
川瀬は奥にあった陶器を手にして日和に見せる。
女の子と男の子が向かい合ってチュッとキスをしているような可愛らしい陶器だった。
「ここに苗を入れると、ほら!お花が二人を祝福してるみたいになります」
「ほんとだ。可愛い!これにしようかな」
「ええ。お二人にお似合いかと思います」
横で聞いていた日向は顔を赤くするが、日和は無邪気に「じゃあ、これにします」と笑顔で言う。
「ありがとうございます。すぐにお包みしますね」
レジの横の広い作業スペースで、川瀬が陶器を丁寧に包む。
その様子を見守っていた日和が、ふと壁のチラシに目を向けた。
『フラワーアレンジメント教室
お花をご自分でアレンジしてみませんか?
贈り物や、ウエディングブーケにも……
お気軽にお尋ねください
フローリスト 川瀬 望美』
日和は、へえー、と興味深く眺める。
「フラワーアレンジメント教室なんてあるんですね」
川瀬は顔を上げて、照れたように笑った。
「そうなんです。そんなに大それたものではないですけどね。お花を買って行かれる方に、ちょっとここで作業していきませんか?みたいにお誘いしたら、割りと反響が良くて」
「そうなんですね。私も自己流だから、いつかちゃんと習いたいと思っていて。今度お願いしてもいいですか?」
「もちろんです!私もお客様と一緒にアレンジするのが好きなので。いつでもお待ちしていますね」
「はい!」
すっかり意気投合した様子の二人を、日向は微笑ましく見つめていた。



