恋愛日和〜真逆の二人が惹かれ合うまで〜

ピンポンとインターフォンを押すと、日向はゴクリと喉を鳴らす。
こんなふうに突然自宅にやって来た自分に、日和は驚くだろう。
嫌がられるかな?
だがここまで来たら渡すまでだ。
なんて言って渡す?

すると「はい」とスピーカーから日和の声がした。

「あれ、佐野さん?」
「ああ。悪い、いきなり」

日向は、花束を背中に隠して答える。

「実はちょっと渡したいものがあって寄ったんだ」
「そうなんですね。今、エントランス開けます。3階まで上がって来てください」
「分かった」

エレベーターに乗っている間も、どう切り出そうかと思案した。
結局何も考えられないまま、3階に着く。

「佐野さん!」

日和は玄関のドアを開けて待っていた。

「こんばんは、お疲れ様です」
「お疲れ様。いきなり来て申し訳ない」
「いいえ、どうかしましたか?」
「えっと、はいこれ」

これ以上は隠し切れないと、日向は花束を差し出した。

「えっ!?これは?」

日和は驚いて目を見開く。

「誕生日プレゼントに。あと、これとこれも」
「え、ええ!?」

陶器のポットが入った紙袋と、マグカップが入った手提げも渡すと、日和は混乱したようにアタフタし始めた。

「えっ、な、なんで?どうしたんですか?」
「誕生日だろ?今日」
「そうですけど、でも……」
「目についたんだ。お前が喜びそうなもの」
「それでわざわざ買って来てくださったんですか?」
「うん。買ってしまったもんは、渡すしかないかなと」
「そんな、こんなにたくさん?あ、とにかく中に入ってください」

日和は両手でプレゼントを抱えながら、日向を部屋に促した。

「座っててくださいね、今コーヒー淹れますから」

そう言ってソファの前のローテーブルにプレゼントの紙袋を置く。

「なんだろう?気になっちゃう。でもその前にコーヒー、コーヒー」

呟きながらキッチンに行き、マグカップを手にそそくさと戻って来た。

「はい、コーヒーどうぞ」
「ありがとう」
「あの、佐野さん。早速開けてみてもいいですか?」
「もちろん」

日和は目を輝かせながらテーブルに膝を進めた。

「わくわく……」

心の声をもらしながら、まずは花束を手に取る。

「わあ、綺麗なお花!華やかで素敵ですね。いい香り」

目を閉じて顔を寄せ、スーッと香りを吸い込んでから日和は日向ににっこり笑った。

「あとこれ、吸水スポンジもあるんだ。フラワーアレンジメント用に」
「えっ、スポンジまで?すごい!とっても嬉しいです」
「こっちも見てみて」

花束だけで満足気な日和に、早く他も見てもらいたくて、日向は紙袋を差し出す。

「ありがとうございます。なんだろう……、マグカップ!えっ、これってもしかして、エプロンとお揃い?」
「そう、たまたま見かけたんだ。あともうひとつ。こっちの紙袋も」
「ちょ、ちょっと。落ち着いて感激出来ません」
「いいから、ほら。見てみて」

急かされて日和は紙袋の中を覗き込んだ。

「えっ!なに、すごい!ワンちゃんとお花だ!」

日和は子どものように笑顔を弾けさせ、両手でそっと陶器を持ち上げる。

「可愛い!お花の香りを嗅いでるのね。白くてふわふわのワンちゃん。ジョリーだ!」

忘れていたことを思い出し、うぐっと日向は喉を詰まらせた。
だが日和は気にする素振りもなく、じっくりと陶器を眺めている。

「ああ、なんて可愛いの、ジョリー。この子がいれば寂しくないです。ありがとうございます!佐野さん」

満面の笑みを向けられて、日向ほ思わずドキッとする。

「喜んでもらえて良かった。その花はアメリカンブルーって言って、今日の誕生花らしい」
「そうなんですね!大切に育てます。育て方のポイントってあるのかな?」
「ああ、ちょっと調べてみるか」

日向はスマートフォンを取り出して、アメリカンブルーを検索する。
『10月14日の誕生花』という説明のあとに花言葉も書いてあった。

『あふれる想い』と『ふたりの絆』

えっ、と思わず手を止める。
まるで心の中を見透かされているような気分になった。

「どうかしましたか?」

日和が見上げてきて、慌てて画面をスクロールする。

「いや。割りと育てやすい花らしいぞ」
「そうなんですね。大切に育てます。ねー、ジョリー」

日和は陶器の犬に顔を寄せて、嬉しそうに笑った。