恋愛日和〜真逆の二人が惹かれ合うまで〜

「宇野、今夜の営業部の飲み会って参加するのか?」

病院を出ると最寄り駅まで歩きながら声をかける。

「はい、参加します」
「そうか。帰社すると微妙な時間になるから、居酒屋に直行するか」
「そうですね。ではあとで部長にその旨、メッセージ送っておきます」
「ああ、頼む」

駅に着き、電車を待つ間に早速日和は部長にメッセージを入力する。
恐らく自分の3倍は時間がかかるな、と思いながら日向は横目でその様子を見ていた。

「フリック入力しないのか?」
「フリック?って、なんですか?」
「だからこう、上下左右に指を滑らせる……」
「ああ!シュシュシュシュッてやつですね」
「そう」

いや、そうじゃないけど。
とにかく日和は、たどたどしい手つきで入力を続ける。

「これでよし!っと。ふう」
「なあ、いつも友達とどうやってやり取りしてるんだ?そんなに入力遅くて噛み合うのか?」
「あ、面倒なので電話しちゃいます」
「なるほど」

妙に納得したところで電車が来た。
郊外にある駅のせいか、車内は比較的空いている。
並んでシートに座ると、日和がキョロキョロし始めた。

「どうかしたか?」
「あ、はい。次に来る時に迷子にならないように、駅の様子を覚えておこうと思いまして」
「そうだな。いつも俺が一緒とは限らんし」

すると日和は「えっ!」と目を見開く。

「佐野さんと一緒じゃないことなんて、あるんですか!?」
「いや、普通にあるだろ。基本的に営業なんて、一人で回るもんなんだから」
「そ、そんな。どうしよう……」

涙目になる日和に、日向はドギマギした。

「いや、だからっていきなり放り出したりはしない。あの病院も、次からは慎一も一緒に行くし、奥田先生だってお前の知り合いなんだろ?」
「あ、そうでした!何かあったら、かずくんに連絡すればいいですね」
「……………」
「え?どうかしましたか?」
「別に……」

日和、と呼ぶ奥田の笑顔を思い出し、日向は不機嫌になる。
だが隣でしゅんと元気をなくした日和を見て、慌てて話しかけた。

「えっと、新居はどうだ?もう落ち着いたか?」
「あ、はい。とても良いところを紹介してくださって、椿さんにもお友達の方にも感謝しています。家具も素敵なものばかりで」
「そうか、それなら良かった」
「佐野さんは?毎日ちゃんとご飯食べてますか?」
「あー、朝食は食べなくなったかな」
「だめですよ。少しでもいいから食べてくださいね」

こうやって二人で会話をするのが、日向は懐かしくなる。

(やっぱりこの方がいい)

ひとり暮らしは味気ないと、日和が出て行ってから思い知った。

(だけどもう戻れない。諦めろ)

心の中で日向は自分にそう言い聞かせた。