恋愛日和〜真逆の二人が惹かれ合うまで〜

椿が友人に話をしてくれ、日和の入居が10日後に決まった。
日和はようやく実家に連絡し、アパートでボヤがあったから別の部屋に引っ越すと伝える。
驚かれたが、今度の部屋はちゃんとしたところだと分かって、両親もその方が安心だと納得した。

週末になると、日和は朝からキッチンでたくさんの料理を作る。
日持ちのするものを次々と容器に詰めていった。

「準備出来たか?」
「はい」
「じゃあ行こう」

今日はこれから日向の運転で、ゴンさんに会いに行くことにしていた。

「えーっと、ここかな?」

コインパーキングに車を停めると、教えられた住所を頼りに二人はアパートにたどり着く。
以前より綺麗で広い洋室の部屋だった。

「おー、よく来てくれたな、ひよちゃん。佐野さんも。狭いとこだけど、入って」
「はい、お邪魔します」
「ごめんなー、座布団もなくて」
「ううん、大丈夫。ゴンさん、おかず作ってきたの。冷蔵庫に入れて食べてね。ゴンさんの好きな煮物ときんぴらだよ」

日和が手渡すと、紙袋を覗き込んでゴンさんは「おおー!」と破顔する。

「ありがとな、ひよちゃん。またこれが食べられるなんて、めちゃくちゃ嬉しい。あっという間に食っちゃいそう」
「ふふっ、そしたらまた作って持ってくるね」
「ありがとよー」

コーヒーを飲みながら、互いの近況を報告した。

「ひよのところにも、火災保険ちゃんと下りたか?」
「うん、下りたよ。新しく住むところも決まったの」
「そうか!良かったなあ。やっさんが謝ってたよ。ひよちゃんに悪いことしたって。もうタバコはすっぱり辞めたらしい」
「そっか。でもみんな無事で本当に良かった」
「ああ、そうだな」

するとゴンさんは、改めて日向に向き合った。

「佐野さん、本当に色々ありがとうございました」
「いえ、そんな。私は何も」
「いいや。俺達おっさんはどうにでもなるけど、ひよちゃんはそうはいかない。いきなり住むところがなくなって、あの時はどうしようかと頭を抱えました。深夜に駆けつけてくれて、本当に助かりました」
「こちらこそ。宇野の命を救ってくださって、ありがとうございました。あなたがいてくれなければ宇野はどうなっていたのかと、想像するだけで恐ろしいです」
「いやー、こんなしがないオヤジでも役に立てて良かった」

そう言うとゴンさんはふと真顔に戻って目を伏せる。

「なんか、罪滅ぼし出来た気になってました。娘に対して」

え……と、日向も日和も言葉に詰まる。

「7歳で生き別れて、父親として何もしてやれなかった。勝手にひよちゃんに娘を重ねて、いつも見守ってきたんです。あの火事の時も、何がなんでもひよちゃんを助けなければと、それしか頭になかった。無事で、良かった……」
「ゴンさん……」

日和の目に涙が浮かぶ。
ゴンさんはゴシゴシと目元を拭うと、照れたように笑った。

「ま、そんな訳で、勝手にひよちゃんの父親の気分で言わせてもらいます。佐野さん、これからもどうか、ひよのことをよろしくお願いします」

深々と頭を下げるゴンさんに、日向は慌てる。

「そんな、ゴンさん、頭を上げてください。彼女のことは必ずこれからも見守っていきますから、ご安心ください」
「そうですか。末永く、どうか末永ーく、ひよをよろしくお願いいたします」

何やら圧をかけられるが、日向は頷いた。

「は、はい。かしこまりました」
「ありがとう、佐野さん。これで俺もひと安心だ。良かったなあ、ひよちゃん」

しみじみと日和に笑いかけるゴンさんに、日和も明るく笑った。