恋愛日和〜真逆の二人が惹かれ合うまで〜

「日向、お疲れー」

仕事終わりに同期会の会場の居酒屋に行くと、既に皆は盛り上がっていた。
日向は椿に手招きされて、隣の席に着く。

「悪い、遅くなった」
「ううん、お疲れ様。ビールでいい?」
「ああ、サンキュー」

椿はビールをオーダーすると、日向の前に取り皿や箸を並べながら尋ねた。

「それで、どうだった?ひよちゃん。無事に捕まえられた?」

日向は顔をしかめつつ頷く。

「うん。やっぱり椿の言った通り、ラウンジでお絵描き中だった」
「あはは!だろうね。でもさ、私としてはうちのパブリッシング事業部にずっといてほしかったんだ。営業部に持ってかれて残念」
「ええ!?それって宇野のこと?」
「もちろん。うちの会社って普通、新卒社員は最初の研修先でそのまま配属になるじゃない?でもひよちゃんだけは違うのよ。てっきりうちに来てくれるのかと思ってたのに、デジタルソリューションに回されちゃってさ。で、その次は営業部でしょ?こんなに転々とするなんて、異例だよね」
「それって、なんでなんだ?」

確かにこれまで、1ヶ月ごとに新人が研修先を変えられる話は聞いたことがなかった。

「なんかね、人事部で決めかねてるみたいよ。ひよちゃんをどこに配属させるかって。デジタルソリューションでも、ひよちゃんの評判が良かったみたいだし」

すると「なんかうちの話してる?」と声がして、日向と椿は顔を上げる。
ビールを片手に、デジタルソリューション事業部の同期、飯田 慎一(しんいち)が席を移動して来た。
隣に座った慎一に、椿が早速話を振る。

「ねえ、慎一のところにも先月研修に行ったんでしょ?新卒の宇野日和ちゃん」
「おう、来たぜ。なかなかだよなあ、あの子」

でしょー?と椿は声のトーンを上げた。

「いいよね、ひよちゃん。最初は、この子大丈夫かな?って見てたんだけど、もう発想がすごくって。どんどんアイデア出してくれて、どれも目からうろこなの。雑誌のコスメ紹介ページを手書きのイラストで描いてくれたんだけど、それが斬新かつセンス良くてね。オリジナルのフォントも生み出してくれて、他の出版社からも使いたい!って」
「うちでも革命児だったぜ。若者向けのチャットツールアプリに、アスキーアートとスタンプをたくさん作ってくれてさ。クライアントにめちゃくちゃ喜ばれて、俺らも株を上げてもらったよ、ひよちゃんに」

運ばれてきたビールを飲みながら、日向は二人の話を訝しげに聞いていた。

「私、てっきりこのままうちにいてくれるんだと思ってたら、まさかの慎一のところに持っていかれてさ」
「俺だってそうだよ。波に乗って盛り上がってるところを、日向のところにかっさらわれるとは」

椿と慎一に同時に振り返られ、日向は「なんだよ?」と呟く。

「有能な人材が来てくれて、営業も助かってるだろ?」

慎一の言葉に、日向はため息をついた。

「同一人物の話とは思えない」
「は?どういうことだよ」
「他ではどうだったか知らんが、俺はホトホト困っている!」

きっぱりと言い切る日向に、椿と慎一は顔を見合わせる。

「日向、ひよちゃんに困ってるの?それはまあ、没頭スイッチが入ると話しかけても返事は返って来ないけど、そういう時にいいアイデアが……」
「違う、そこじゃない」
「じゃあどこよ?」

日向はビールジョッキをテーブルに置いて、椿と慎一を交互に見た。