恋愛日和〜真逆の二人が惹かれ合うまで〜

「ただいま」

玄関を開けると「おかえりなさい!」と声がして、エプロン姿の日和がパタパタと出迎えに来た。
途端に隣で椿が「やーん!」と両手を頬に当てて身悶える。

「なになに、この新婚さんムード!ご飯にする?お風呂にする?それともわ・た・……」

日向は「やめろ」と睨みを利かせて一蹴した。

「椿さん?ご一緒だったんですね」
「そうなのー。ひよちゃんに会いたくてね。でも私のことはどうぞお気になさらず。ほら、ただいまのチューをどうぞ」

バシバシと背中を叩いてくる椿を、日向はまたしてもジロリと睨んだ。

「変なことばっか言ってると追い返すぞ」
「やだやだ!ひよちゃんと話がしたくて来たんだもん。お邪魔しまーす」

靴を脱いで上がった椿は、リビングに入るなりまた声を上げる。

「ひゃー、手料理よ!妻の手料理がこんなにたくさん並んでる!」

はあ、と日向はため息をついた。
何を言っても興奮気味の椿には無駄だと諦める。

「よかったら椿さんも食べていってください。味はあんまり自信ないですけど」
「ううん、見るからに美味しそう!私、料理はからっきしだめだから、ひよちゃんのこと尊敬するわ」
「まさか、そんな。あ、ビールでいいですか?」
「うん!」

椿は、冷蔵庫からビールを取り出す日和をニヤニヤと眺めてから、日向に耳打ちする。

「いい奥さんねー。よくぞ捕まえたわね」
「バカ!何にもないわ」
「え、うそでしょ?一緒に暮らしてたのに?」
「当たり前だろ?何考えてんだ」
「そうなんだー、残念。じゃあやっぱりこの話、した方がいいのかな」

ポツリと言う椿に、日向は「何のことだ?」と首をひねる。

「あのね、私の友達が近々結婚することになったの。で、今までひとり暮らししてた部屋を引き揚げることになってね。そのあとに、ひよちゃんが入居するのはどうかなと思って」

えっ!?と、日向と日和は同時に聞き返した。

「その部屋って、ワンルームマンションか?」
「そう。私も遊びに行ったことあるけど、いいところよ。セキュリティーもしっかりしたマンションの3階。駅から徒歩10分で夜道も危険じゃないし。それにね、その友達、家具も家電も不要だから処分するつもりだったけど、もしひよちゃんが引き受けてくれるなら助かるって。どう?」

日和は身を乗り出して確認する。

「それは、その家具と家電を譲っていただけるってことでしょうか?」
「そう。処分するにもお金がかかるでしょ?だからひよちゃんさえよければ、そのまま使ってほしいって」
「いいんですか?助かります!あ、でも……」
「ん?なに?」
「その、家賃はおいくらでしょうか」
「ああ。友達は管理費込みで10万5千円だったけど、大家さんに交渉したら、次の子は10万ちょうどでいいって言われたんだって」

10万ちょうど……と、日和は呟く。
確か予算は7万だったなと、日向は思い出した。

「宇野、営業の手当がそろそろお前にもつくと思う。最低でもひと月5万、多ければ10万は入るはずだ」

えっ!と日和は顔を上げる。

「そうなんですか?」
「ああ。それなら予算も問題ないだろ?」
「はい!」
「よし、決まりだ。椿、そこを正式に紹介してやってくれ」

もちろんよ!と椿が日和に笑いかける。

「ありがとうございます!椿さん」
「どういたしまして」

話がまとまり、ようやく3人で夕食にする。
日和は住むところが決まってホッとしたのか、終始笑顔で楽しそうにしていた。

「じゃあ、そろそろ帰るわね。お邪魔しました」

椿が立ち上がり、日向と日和は玄関で見送る。

「ひよちゃん、美味しいお料理をありがとう」
「いいえ。こちらこそ、色々ありがとうございました。椿さん、遅くなりましたが、立て替えていただいたお金です」

そう言って日和は、封筒を椿に差し出した。

「えっ、いいのに。私からのプレゼントだと思って」
「あんなにたくさん、そんな訳にはいきません。それにお部屋のことでもお世話になるので」
「そう?じゃあ、ひよちゃんの気が済まないなら、受け取らせてもらうわね」
「はい」

椿に封筒を渡すと、日和は改めて頭を下げる。

「椿さん、本当に色々とありがとうございました」

日向も隣で口を開いた。

「椿、ありがとう。おかげで助かったよ。部屋のことも、よろしくな」
「もちろん!じゃあ、また会社でね」
「ああ、気をつけてな」
「はーい!」

椿は明るく笑って帰っていった。