恋愛日和〜真逆の二人が惹かれ合うまで〜

「ん?どうした、何か欲しいのか?」

出口の近くのお土産コーナーを通りかかると、日和がじっと花に見とれている。

「いえ、あの。切り花を買って帰りたいなと思って」
「ふうん。どれがいいんだ?」
「佐野さん、花粉症ではないですか?」
「スギとかはだめだけど、こういう花なら大丈夫。何でも好きなの選びな」
「はい!ありがとうございます」

日和は「どれにしようかな」と熱心に選び始めた。
バケツにそのまま生けられている花を1輪ずつ手に取り、色やバランスを考えながら真剣に見つめると「うん!」と満足そうに微笑む。
その横顔に、日向は思わずドキッとした。

「あ、えっと、決まった?」

取り繕うようにレジへ向かおうとすると、日和は「自分で払います」とスマートフォンを取り出した。
使えるようになったばかりのスマホ決済で会計を済ませると、花束を手に嬉しそうに日向を振り返る。

「お待たせしました」
「ああ。じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「はい」

帰りは渋滞にはまり、1時間半かかってようやくマンションに着く。

「佐野さん、お疲れでしょうからソファに座っててください。すぐにコーヒー淹れますね」

日和はパタパタとキッチンに行き、コーヒーを淹れてローテーブルに運ぶ。

「ありがとう」

お礼を言う日向に、にこっと笑ってから、日和は何やら洗面所にこもった。

どうしたのかと思っていると、またパタパタと戻って来る。

「佐野さん、ちょっとだけ洗面台にお水張っててもいいですか?」
「は?うん、いいけど」
「ありがとうございます。じゃあ、夕ごはんの準備しますね」

そう言ってキッチンに行く日和は、とにかく妙に嬉しそうだ。

(何がそんなに楽しいのやら?)

不思議に思いながら、日向はソファでパソコンを開いた。
日和の新しい住まいを探そうと、賃貸マンションを検索する。
ちょうど会社へのアクセスも良く、セキュリティーも整った家賃12万円の部屋が見つかり、日和に聞いてみた。

「家賃の予算ってどれくらいで考えてる?」
「家賃ですか?低ければ低いほどいいですが、7万円までならなんとか」

7万円!?と日向は驚く。

「いや、ここ東京だし、セキュリティーの整ったマンションで7万円はさすがに厳しい」

それに日和も自分と同じブレイン印刷に勤めている。
営業手当はまだもらえないにしても、家賃12万円は充分払える給料はもらっているはずだった。

「どうして7万円までなのか、理由はあるのか?」
「はい。大学の奨学金の返済を早く終えたいので」
「ああ、なるほど」

幼く見えてしっかりしている、と日向は感心する。
だがやはり7万円では、以前とさほど変わらない物件にしか住めないだろう。

(もう少し遠くで探してみるか。けど通勤に2時間近くかかると、結構キツイよな)

うーん、と考えあぐねていると「ご飯出来ましたよー」とキッチンから日和が声をかけてきた。
日向は一旦考えるのをやめて、パソコンを閉じた。