恋愛日和〜真逆の二人が惹かれ合うまで〜

「おはようございます。すみません、寝坊してしまって」

7時半になって起きてきた日和に、日向は平静を装って「おはよう」と返事をする。

「よく眠れたみたいで良かった。コーヒー飲む?」
「あ、はい。朝食もすぐ準備しますね」

ブラウスとスカートの上からエプロンを着けて、日和は早速冷蔵庫から卵やチーズやバターを取り出した。
日向がコーヒーを淹れている間に、手際良く作り終える。

「どうぞ。今朝はチーズオムレツとフレンチトーストにしてみました」
「おおー、うまそう!いただきます」

ふわふわのフレンチトーストと、チーズたっぷりのオムレツは、まるでホテルの朝食のようで日向は贅沢な気分になった。

「サラダとヨーグルトも食べてくださいね」
「ありがとう」

朝からしっかり食べたせいか、頭の中もシャキッとする。

「今日はどうする?どこか出かけたい?」

お皿を片づけながら聞くと、日和は視線を落とした。

「いえ、あの。私のことはお構いなく。佐野さんは出かけて来てください」

小さく話す日和に、日向は首を傾げる。

「え?俺一人でどこに行けって言うんだ?」
「それは、その……。彼女とデートに」
「は?俺、彼女いないけど」
「そうなんですか?」

意外そうに言って何かを考える素振りをしてから、日和は顔を上げた。

「でも佐野さんのプライベートの時間も大切ですから、どこかにお出かけして来てください。もしおうちでゆっくりされたいようでしたら、私が外に行きます」
「いやいや。お金もカードもないのに一人でどこに行くつもり?」
「それは、その、公園とか」
「この暑い中、公園で遊ぶのか?飲み物も買えないのに、熱中症になったらどうする」
「そんな、私、子どもじゃないですから」
「子どもじゃなくても心配なの。いいから俺と一緒にいろ。せっかくの休みだし、出かけよう」

日和は渋々頷く。

「その前に、お掃除とお洗濯済ませますね」
「分かった、ありがとう。あ!書斎は掃除しなくていいからな」
「かしこまりました」

クローゼットから掃除機を取り出して、日和は鼻歌を歌いながら掃除を始めた。

(そんなに掃除が楽しいのか?それにしても、随分雰囲気が違うな)

会社ではいつもスーツを着ている日和は、椿と一緒に選んだ服を着ていると別人のようだった。
昨日のワンピース姿は可愛らしかったが、今日はふんわりした袖の白のブラウスに淡いブルーのフレアスカートで、綺麗な大人の女性といった印象だ。

(あれ?そう言えば宇野って彼氏いるのかな)

ふいにそんなことが頭をよぎる。
もしいたら、昨夜一緒にベッドにいたことが心苦しい。

(いるって話は聞いたことがないけど、分からんよな。会社でも、ひよちゃんひよちゃんって男どもが騒いでるし、誰かに告白されてつき合い始めたかもしれない。思い切って聞いてみようか、でもなんて?)

その時、先程の日和のセリフを思い出した。

(そうだ!その流れで聞けばいい)

そう思い、日和に声をかける。

「なあ、宇野」
「はい、なんですか?」
「宇野こそ、彼氏とデートに行かなくて大丈夫なのか?」
「彼氏なんて、生まれてこの方いませんよ」
「そうか!良かった」
「え?」
「あ!いや、良くないな、すまん」

自分にしては珍しくポロリと失言してしまい、日向は焦った。

「えっと、どこに行きたい?行ってみたいところとか、あるか?」

取り繕うように話題をそらす。
日和は掃除機のスイッチを切って、うーん、と考え始めた。

「あの、フラワーセンターに行ってみたくて……」
「フラワーセンター?」
「はい。電車ではアクセスが悪いので今まで諦めてたんです。って、図々しい事を言ってすみません」
「いや、構わない。じゃあ準備出来たら早速行くか」
「はい!」

日和は洗濯機を乾燥までセットすると、軽くメイクを整えてショルダーバッグを肩から掛ける。

「出来ました!」

にこにこ顔でリビングに現れた日和に、日向は思わず笑みをもらす。

「遠足に行く子どもみたいだな。では出発しましょうか」
「はい、よろしくお願いします」

二人で笑い合い、マンションを出た。