二人が働く会社は、印刷業界では最大手と言われるブレイン印刷株式会社。
日和は大学を卒業したばかりの22歳で、新卒採用で4月から働き始めた。
最初の1ヶ月は椿のいるパブリッシング事業部で研修し、5月はデジタルソリューション事業部、そして6月からは営業部で日向について研修を受けている。
「宇野、鈴鹿商事へ行くのはこれで3度目だろ。もう道順覚えたか?」
訪問先の最寄駅で地下鉄を降り、地上に出ると日向が日和を振り返って尋ねた。
「あ、まだあんまり自信がなくて……。すみません、道覚えるのが苦手で」
「じゃあ地図アプリ見ながらでいいから、俺より先歩いてみて」
「はい、分かりました」
日和は会社支給のスマートフォンを取り出すと、地図アプリを開いた。
「えっと、今いるのは……」
眉間にしわを寄せる日和に、日向は隣から手元を覗き込む。
「その縮尺だと分からんだろ。ピンチアウトでズームして」
「ピンチ、アウト?」
「だから、2本指でドラッグして、こう……」
「ああ!にゅーんってやつですね」
にゅーん!?と日向は思い切り眉根を寄せる。
「にゅーん……っと。出来た!地図が大きくなりました」
「ああ、うん。って、なんでスマホをぐるぐる回す!?」
「どっちがどっちか方角が分からなくて」
日和はスマートフォンの向きをコロコロ変えながら歩き始めた。
「なんでそっちの道へ行く?スマホの表示を見ろ!ちゃんとナビしてくれてるだろ!」
「歩いてみないと、こっちの道で合ってるかどうか分からないですよね?」
「な、ど、どういうこと!?」
「あっ、部長から電話かかってきました。出てもいいですか?」
「もちろん。って、おい!タップじゃない。スワイプだ」
「スワ……?え、何ですか?」
「だから、指を滑らせるんだ!」
「ああ、人差し指でスイーッてやつですね」
「なんでもいいから、早く出ろ!」
「はい。スイーッて、あれ?切れちゃった」
ガクリと日向はこうべを垂れる。
「仕方ない。折り返してかけな」
「分かりました。えっと、電話帳を開いて……」
「いや、着信履歴からかけ直せば……って、もういい!貸せ」
日向は日和の手からスマートフォンを取り上げてかけ直した。
「もしもし、部長。佐野です」
『あれ、佐野くん?宇野さんは?』
「ここにいます。スマホの使い方が分からないようなので、代わりに私がかけ直しました」
『は?何それ、ははは!そんな若者いるんだ。俺おじさんだけど、スマホで電話くらいかけられるよ。俺の方が勝ってるんじゃない?』
「ええ、間違いなく。ところでご用件は?」
『ああ。宇野さんに、帰社したら人事部に立ち寄るように伝えてくれるか?来月からの研修先の件で話があるみたいなんだ』
「かしこまりました、伝えます」
通話を終えて腕時計を確認すると、約束の時間が迫っていた。
日向は手短に伝言を伝え、日和に道案内させるのは諦めて先を歩き始めた。
日和は大学を卒業したばかりの22歳で、新卒採用で4月から働き始めた。
最初の1ヶ月は椿のいるパブリッシング事業部で研修し、5月はデジタルソリューション事業部、そして6月からは営業部で日向について研修を受けている。
「宇野、鈴鹿商事へ行くのはこれで3度目だろ。もう道順覚えたか?」
訪問先の最寄駅で地下鉄を降り、地上に出ると日向が日和を振り返って尋ねた。
「あ、まだあんまり自信がなくて……。すみません、道覚えるのが苦手で」
「じゃあ地図アプリ見ながらでいいから、俺より先歩いてみて」
「はい、分かりました」
日和は会社支給のスマートフォンを取り出すと、地図アプリを開いた。
「えっと、今いるのは……」
眉間にしわを寄せる日和に、日向は隣から手元を覗き込む。
「その縮尺だと分からんだろ。ピンチアウトでズームして」
「ピンチ、アウト?」
「だから、2本指でドラッグして、こう……」
「ああ!にゅーんってやつですね」
にゅーん!?と日向は思い切り眉根を寄せる。
「にゅーん……っと。出来た!地図が大きくなりました」
「ああ、うん。って、なんでスマホをぐるぐる回す!?」
「どっちがどっちか方角が分からなくて」
日和はスマートフォンの向きをコロコロ変えながら歩き始めた。
「なんでそっちの道へ行く?スマホの表示を見ろ!ちゃんとナビしてくれてるだろ!」
「歩いてみないと、こっちの道で合ってるかどうか分からないですよね?」
「な、ど、どういうこと!?」
「あっ、部長から電話かかってきました。出てもいいですか?」
「もちろん。って、おい!タップじゃない。スワイプだ」
「スワ……?え、何ですか?」
「だから、指を滑らせるんだ!」
「ああ、人差し指でスイーッてやつですね」
「なんでもいいから、早く出ろ!」
「はい。スイーッて、あれ?切れちゃった」
ガクリと日向はこうべを垂れる。
「仕方ない。折り返してかけな」
「分かりました。えっと、電話帳を開いて……」
「いや、着信履歴からかけ直せば……って、もういい!貸せ」
日向は日和の手からスマートフォンを取り上げてかけ直した。
「もしもし、部長。佐野です」
『あれ、佐野くん?宇野さんは?』
「ここにいます。スマホの使い方が分からないようなので、代わりに私がかけ直しました」
『は?何それ、ははは!そんな若者いるんだ。俺おじさんだけど、スマホで電話くらいかけられるよ。俺の方が勝ってるんじゃない?』
「ええ、間違いなく。ところでご用件は?」
『ああ。宇野さんに、帰社したら人事部に立ち寄るように伝えてくれるか?来月からの研修先の件で話があるみたいなんだ』
「かしこまりました、伝えます」
通話を終えて腕時計を確認すると、約束の時間が迫っていた。
日向は手短に伝言を伝え、日和に道案内させるのは諦めて先を歩き始めた。



