恋愛日和〜真逆の二人が惹かれ合うまで〜

リビングのソファで4時間ほど眠ると、日向は椿に「起きたら連絡してほしい」とメッセージを送った。
時刻は朝の7時で、お盆休みで仕事がない為、椿はまだ起きていないかもしれない。

キッチンで朝食の準備をしていると、スマートフォンが鳴り始める。
表示を見ると椿からの電話だった。

「もしもし、椿?悪い、休日の朝っぱらから」
『ううん、大丈夫。それよりどうかしたの?』

椿は既に、何かあったのだろうと察しているようだった。
日向は、日和の身に起こったことを椿に話す。

『ええ!?それで、ひよちゃんは?無事なの?』
「ああ、大丈夫だ。今うちで預かってて、まだ寝てる」
『そうなのね、良かった……』

椿は心底ホッとしたように言う。

「けど、身ひとつで逃げたらしく、財布もスマホもないんだ。アパートも全焼してしまったらしい」

えっ……と椿は絶句した。

『そんな……。じゃあひよちゃん、これから一体どうするの?』
「それは俺がなんとかする。椿には、別のことを頼みたい」
『うん、なに?なんでもするわよ』
「ありがとう。女の子に必要な身の回りのものを揃えてくれるか?洋服とか、化粧品とか」
『分かったわ、任せて!用意出来たらすぐ日向のマンションに行くわね』
「ああ、頼む」

通話を終えるとカチャッとリビングのドアが開いて、日和が顔を覗かせた。

「おはよう。よく眠れた?」
「おはようございます。はい、お陰様でぐっすり」
「そう、よかった。今コーヒー淹れるから座ってて」
「いえ、あの。私がやります。やらせてください」
「いいから」

日向がそう言うが日和はキッチンまで来て、ボウルの中の溶き卵に目をやる。

「これは?」
「ああ、スクランブルエッグでも作ろうかと思ってたとこ」
「じゃあ、あとは私がやりますね」

日向がコーヒーを淹れている間に日和はスクランブルエッグを作り、一緒に置いてあったベーコンも焼いて皿に盛りつけた。

「テーブルに運びますね」
「うん。って、すごいな。ふわふわでうまそう」
「他には何か用意しますか?」
「トーストとサラダくらいかな」
「分かりました」

日和は手際良く日向を手伝い、ダイニングテーブルに皿を並べた。

「じゃあ、食べようか」
「はい、いただきます」

二人で手を合わせて食べ始める。

「この卵の半熟具合、いいな。どうやったらこんなにふわふわになるんだ?」
「卵は余熱でも固まるので、早めに火を消すといいですよ」
「ふうん、そうなんだ。宇野、オムレツとか作れる?」
「オムレツですか?はい、一応」
「じゃあ明日作ってくれない?」

え……と、日和はフォークを持つ手を止めてうつむく。

「ん?どうかした?あ、作りたくなかったら無理しなくていいからな」
「いえ、そういう訳では。ただ、このまま明日も佐野さんのお世話になるなんて、図々しくて……」

日向はフォークを置くと、正面から日和に向き直った。

「宇野。いいか、よく聞け。お前は今、非常事態なんだ。こんな時にいつもの考えなんて捨てろ。頼れるだけ周りに頼りまくれ。その方が周りも嬉しいんだ」
「ですが、心苦しくて」
「それなら、生活が元通りになって落ち着いてから、改めてお礼を言えばいい。いいか?今のお前は冷静な判断が出来ない。俺の言う通りにしろ。変な詐欺にでも遭ったりしたら大変だからな」
「え、まさかそんな」
「じゃあ聞くけど、これからの手続きとか全部1人で出来るのか?火災保険や銀行やクレジットカード会社とのやり取り、スマホだって新しく契約して使えるようにしなきゃいけないし、新居を探して役所にも会社にも届けなければいけない」

日和はハッとしたように目を見開いてから涙目になる。

「ごめん、脅かすつもりはなかった。だけどそれくらい、これからお前がやらなければいけないことは山積している。ただでさえ心身共にダメージを受けてるのに、まだ社会人になりたてのお前には無理がありすぎる。それともしばらく実家に帰るか?」
「いえ!仕事は休みたくありません」
「それなら俺がなんとかする。いいか?お前は何も考えず、まずはここで気持ちも身体も落ち着かせるんだ。分かった?」

日和はうつむいたままコクンと頷く。

「よし。じゃあしっかり朝食も食べろよ」
「はい」

再び食べ始めた日和に、日向も食事の手を進める。
食べ終わって食器を洗っていると、ピンポンとインターフォンが鳴った。
モニターを見た日向は、驚いて応答する。

「椿!もう来てくれたのか?」
「うん!取り敢えずの物だけ持ってね」
「ありがとう、今開ける」

エントランスのロックを解除して、玄関のドアを開けて待っていると、エレベーターから椿が降りて来た。

「ひよちゃん!」
「椿さん!?」

部屋に入って来た椿に日和は驚くが、ギュッと椿に抱きしめられた途端、ポロポロと大粒の涙を流し始めた。

「ひよちゃん、大丈夫だった?怖かったでしょ」
「椿さん……」

嗚咽をもらして泣き続ける日和を抱きしめながら、椿は何度も優しく頭をなでる。

(良かった、椿が来てくれて。ようやくちゃんと泣けたな)

日向はそんな日和を優しく見守っていた。