恋愛日和〜真逆の二人が惹かれ合うまで〜

お酒も入り、疲れ切った身体は泥のように重く、日和はぐっすりと寝入っていた。
いつもなら、もっと早く異変に気づけただろう。
部屋の中が真っ白になるほど煙が立ち込める前に。
だがその時の日和は熟睡していて気づけなかった。

「ひよ!起きろ、火事だ!」

玄関のドアを激しく叩くゴンさんの声がして、ようやく日和はハッと目を覚ました。

(な、なにこれ)

真っ白な視界に、まだ夢の中ではないかと瞬きを繰り返す。

「ひよ!早く逃げろ!」

ドンドンとドアを叩く音に我に返ると、日和はガバッと起き上がった。
だが一気に煙を吸い込んでしまい、ゴホゴホと咳き込む。

「ゴ、ゴンさん……」

煙がしみた目は涙でにじみ、声がかすれる。
床に這いつくばって少しずつ移動するが辺り一面は白く、どちらが玄関なのか、もはや感覚も定かではない。
ゴンさんがドアを叩く音を頼りに、音がする方へと向かう。
するとピタリと音が止んだ。

(えっ、どっち?ゴンさん、どこ?)

不安で涙が込み上げる。
そのうちに、パチパチと天井が燃える気配がした。
日和の身体からサーッと血の気が引く。

「ゴンさん、ゴンさ……、ゴホゴホ!」

もうだめか、と思った時、バリン!と窓ガラスが割れた。

「ひよ!こっちだ!」
「ゴンさん!」

新鮮な空気と共にゴンさんが部屋に飛び込んでくる。
日和を抱きかかえると、すぐさま窓の外へと脱出した。
そのまま安全な場所まで走ると、ようやく日和を地面に下ろす。

「ひよ、無事か?ケガは?」
「大丈夫……。ありがとう、ゴンさん」

呟いた途端、日和はヘナヘナと座り込んだ。

「怖かった……。もうだめかと思った。ゴンさんがいてくれなかったら、私……」

ポロポロと涙をこぼす日和の頭を、ゴンさんはポンポンとなでる。

「怖かったよな、ごめんよ。俺が深酒してなけりゃ、もっと早く気づけたんだけど」
「ううん、私も今夜は熟睡してたから。それより他の人は?無事なの?」

木造アパートは4部屋あり、2階にもゴンさんと同年代の男性が1人ずつ住んでいた。

「ああ、無事だ。二人が俺を起こしに来たんだ」
「そう、良かった」

その時、ようやく消防車がやって来て放水を始める。
結局アパートは全焼して鎮火した。