月が、綺麗だったんだ

 大学を卒業するまでの二年。
 旅行に行ったり、お泊まり会したり。
 私にとっては新しいことばかりで、楽しかった。


 就職してからの二年。
 すれ違うことは多かったけど、誰よりも一番近くで過ごしてきた。


 気持ちは見失ってしまったけど、アイツがいない日は想像しなかった。


「……重いんだよ」


 月を見つめて、私は改めて、静かに言った。


 私たちの間に、沈黙が流れる。
 風が草木を揺らす音が心地よい。


「ありがとね、琉唯。少しだけ楽になった気がする」


 琉唯からは言葉が返ってこない。


 そんなに困らせるようなこと、言ったかな。
 いや、そもそもこの話題が困らせる原因か。


「……なあ、依茉」


 すると琉唯は、緊張感が漂うような声で、私の名前を呼んだ。


「ん?」


 対して、心が軽くなった私は、気の抜けた声を返す。


「月が……綺麗、だな」


 琉唯に言われて見上げると、月は雲で隠れている。
 というか、琉唯は月を見ていない。


 ああ、知らなかったな。
 琉唯が文学的なことを言うなんて。


「……うん。月、綺麗だったんだよ」
「……そっか」


 ありがとう。
 ごめんね。