「あ」


 夜のコンビニ。
 近くでなにかを見つけたような声が聞こえ、私は目の前のアイスコーナーから視線を上げた。


 冷凍庫を挟んで向こうに、まっすぐ私を見てくる人がいる。


「……あ」

 誰かと思えば、琉唯(るい)だ。
 憎たらしいくらい、奴は昔のまま。


「よ」


 琉唯は、右手を挙げて、また一文字を音にした。


「……よ」


 なんだ、この一文字だけのやり取りは。
 私たちは日本語を忘れてしまったのか。
 世の中の幼なじみたちも、久々に会えば、こんな距離感になってしまうのだろうか。


 妙に気まずい空気に、なんだか笑えてくる。


依茉(えま)、決まった?」


 琉唯はどうやら、もうレジに向かうところらしい。


 この声かけ、懐かしいな。


「あれ、いいんですかー?」


 見失いかけていた距離感は、瞬間的に戻ってきた。


 私はにやりと笑みを浮かべる。


「久々に再会した記念ってことで」
「やった」


 私はソーダ味の棒アイスを取り、琉唯とレジに並ぶ。


 琉唯は店員さんにタバコの番号を言い、それとアイスの代金をスマホで支払った。
 高校卒業以来会っていなかったから、琉唯がタバコを買うような大人になっていることが、違和感でしかない。


「どした?」
「ううん、琉唯もオジサンになったんだなって思って」


 私は言いながら、アイスを取ってレジを離れる。


「はあ? まだ二十四だから。ってか、依茉も同じだろ。そんなこと言っていいのかよ。なあ」


 隣に立った琉唯は、意地の悪い顔をしている。
 私はその先を言わせないという意味を込めて、睨みつける。


「……冗談でーす」


 そして私たちはコンビニを出た。