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結局、お母さんはスマホのことをお父さんには言わなかったみたいだ。
夕食のときなにも咎められなかったから、そういうことだと思う。

けれどご飯の味はほとんどしなかった。
次の日の朝も食欲がなくて一口食べただけで食べられなくなってしまった。

「瞳、ちょっと待ちなさい」
玄関まで出てきたところでお母さんに呼び止められて振り向くと、片手にゼリー飲料を持っていた。

「最近様子が変だけど、食事はちゃんとしないとダメよ」
と、手渡してくる。

「ありがとう」
そう言って受け取ると、また泣きそうになってしまった。

こんなに心配かけたくなかった。
ずっといい子でいたかったのに。

「大丈夫よ瞳。あんたは私の子なんだから」
不意に後ろから抱きしめられて、朝食と同じ匂いがした。