「突然すみません。僕たち山岡西中学の者です」
昇が自分の学生証を取り出して相手に見せている。

いつの間にそんなものを準備したのだろうと、関心してしまう。
きっと一度着替えに戻った時についでに持ってきたんだろう。

学生証は制服の胸ポケットに入れておくべきなのに。
「あら、生徒さんがわざわざこんなところまで？」

昇の学生証を見て今度は女性のほうが恐縮しはじめてしまった。
「でも、学校は？　今日は休みじゃないわよね？」
さすが菅原先生の身内だ。

学校に行事予定を知っているみたいだ。
だけどバスの移動中にちゃんと言い訳は考えている。

「私達は郊外学習なんです。そこで偶然この近くまで来たので、先生に許可を取って来ました」

予め用意しておいたセリフを言うのに、ジワリを汗をかいてしまった。
けれど女性は疑う表情を引っ込めて笑顔になった。

「そうだったの。わざわざありがとう。士郎もきっと喜ぶわ」
「あの、失礼ですが先生のお母様ですか？」

質問すると、女性はゆっくりとうなづいた。

目元が優しかった先生にそっくりだ。