デリバリー
男がデリバリーで中華を注文してから3時間が経過していた。
いくら夕飯時だと言っても遅すぎる。
当初の予定では1時間以内に届くはずだったのに。
男はイライラと舌打ちしてスマホ画面を確認した。
すると到着まであと3分と表示されている。
やっと届くか。
そう思ったときだった。
窓の外から消防車が行き交う音が聞こえてきた。
今日は火事が多いようで数時間前からパトカーや救急車の音もひっきりなしに聞こえてきている。
それで道が混雑しているのかもしれないけれど、それにしても遅い。
届いたら一言文句を言ってやらないと気がすまなかった。
男が二度目の舌打ちをしたとき、ピンポーンと玄関チャイムが鳴った。
相変わらず、いつ聞いても間抜けな音だ。
男はすぐに玄関へ向かい、ドアスコープから外を覗いた。
そこにはウィーバーイーツの宅配員の姿がある。
なにやら御大層に大きなダンボール箱を両手に抱えているけれど、あの中に中華が入っているに違いない。
「おい、遅いぞ!!」
男が怒鳴りながらドアを開けると、配達員は黒い帽子を深くかぶって顔を伏せた状態で「すみません。道が混んでいたもので」と答えた。
その声はやけに低く、なんだか背筋が寒くなるような声だった。
「最初は1時間だって言ってたのに3時間も待ったんだ。代金は払わないからな!」
男が乱暴に箱を受け取る。
その箱はずっしりと重たかった。
「はい、お代は結構です。では失礼します」
男が怒っているのに、配達員は怯えた様子もなく軽く会釈をして行ってしまった。
その態度に余計にイライラした男だけれど、空腹はもう限界だ。
やけに重たい箱を持って部屋の奥へと戻っていった。
そしてテーブルに箱を置いたときだった。
ピンポーン。
再び鳴った間抜けな玄関チャイムにアイツが戻ってきたのだと察した。
適当な謝罪しかしなかったことを気にしているんだろう。
そう思って玄関を出た瞬間「遅れて申し訳ありませんでした!」と、赤い帽子を脱いで配達員が頭を下げていた。
「お前、さっきは――」
と、言いかけて言葉を切る。
どうもさっきの配達員とは雰囲気が違う。
さっきの配達員は帽子で顔が見えなかったけれど、確か黒い帽子をかぶっていたはずだ。
「実はお客様が注文したお店で火災が発生して、ガス爆発が起こったんです。その前にこの商品を受け取っていたんですが、さすがに足止めを食らっていまして」
赤い帽子の配達員が必死で説明して、ナオロン袋に入った持ち帰り用の中華を差し出してきた。
「お代は結構ですので」
そう言って帰ろうとする赤い帽子の配達員を男は引き止めた。
「店は大丈夫だったのか?」
「それが……爆発したのが原因で店長の首の首が飛んだとか。あ、お食事前にする話じゃありませんよね。重ね重ね、すみませんでした」
赤い帽子の配達員は大急ぎで去っていく。
男の部屋の中で、箱がゴトゴトと動く気配がした。
男がデリバリーで中華を注文してから3時間が経過していた。
いくら夕飯時だと言っても遅すぎる。
当初の予定では1時間以内に届くはずだったのに。
男はイライラと舌打ちしてスマホ画面を確認した。
すると到着まであと3分と表示されている。
やっと届くか。
そう思ったときだった。
窓の外から消防車が行き交う音が聞こえてきた。
今日は火事が多いようで数時間前からパトカーや救急車の音もひっきりなしに聞こえてきている。
それで道が混雑しているのかもしれないけれど、それにしても遅い。
届いたら一言文句を言ってやらないと気がすまなかった。
男が二度目の舌打ちをしたとき、ピンポーンと玄関チャイムが鳴った。
相変わらず、いつ聞いても間抜けな音だ。
男はすぐに玄関へ向かい、ドアスコープから外を覗いた。
そこにはウィーバーイーツの宅配員の姿がある。
なにやら御大層に大きなダンボール箱を両手に抱えているけれど、あの中に中華が入っているに違いない。
「おい、遅いぞ!!」
男が怒鳴りながらドアを開けると、配達員は黒い帽子を深くかぶって顔を伏せた状態で「すみません。道が混んでいたもので」と答えた。
その声はやけに低く、なんだか背筋が寒くなるような声だった。
「最初は1時間だって言ってたのに3時間も待ったんだ。代金は払わないからな!」
男が乱暴に箱を受け取る。
その箱はずっしりと重たかった。
「はい、お代は結構です。では失礼します」
男が怒っているのに、配達員は怯えた様子もなく軽く会釈をして行ってしまった。
その態度に余計にイライラした男だけれど、空腹はもう限界だ。
やけに重たい箱を持って部屋の奥へと戻っていった。
そしてテーブルに箱を置いたときだった。
ピンポーン。
再び鳴った間抜けな玄関チャイムにアイツが戻ってきたのだと察した。
適当な謝罪しかしなかったことを気にしているんだろう。
そう思って玄関を出た瞬間「遅れて申し訳ありませんでした!」と、赤い帽子を脱いで配達員が頭を下げていた。
「お前、さっきは――」
と、言いかけて言葉を切る。
どうもさっきの配達員とは雰囲気が違う。
さっきの配達員は帽子で顔が見えなかったけれど、確か黒い帽子をかぶっていたはずだ。
「実はお客様が注文したお店で火災が発生して、ガス爆発が起こったんです。その前にこの商品を受け取っていたんですが、さすがに足止めを食らっていまして」
赤い帽子の配達員が必死で説明して、ナオロン袋に入った持ち帰り用の中華を差し出してきた。
「お代は結構ですので」
そう言って帰ろうとする赤い帽子の配達員を男は引き止めた。
「店は大丈夫だったのか?」
「それが……爆発したのが原因で店長の首の首が飛んだとか。あ、お食事前にする話じゃありませんよね。重ね重ね、すみませんでした」
赤い帽子の配達員は大急ぎで去っていく。
男の部屋の中で、箱がゴトゴトと動く気配がした。



