意味がわかると怖い話【解説付き】

いい妻

「おい、お茶」
ソファに座ってテレビを見ながら妻の昌子へ向けて言う。
同じようにテレビを見ていた昌子は「はい、すぐに」と返事をして隣のキッリンへと向かう。

すぐに水を出す音が聞こえてきた。
「裕太、お前ももう卒業だな」
「あぁ、そうだな」

一人息子の裕太は明日で高校を卒業する。

その後は県外の大学に進学することが決まっているから、もう部屋の中も荷物が減ってガランとしているはずだ。

ヤンチャで落ち着きのなかった息子が独り立ちするのがなんとなく切ない。

が、もちろんそんな顔は見せずにいつものように眉間にシワを寄せて威厳ある顔つきを作る。

「大学へ行ってもハメを外しすぎるんじゃないぞ」
「わかってるって」

裕太はうるさそうに返事をしてリビングから出ていってしまった。
明日卒業と同時に引っ越しをするというのに、しんみりした態度もない。

内心ガッカリした気持ちで息子の後ろ姿を見送ると、昌子がお茶を持ってきた。
それをすぐに一口すする。
いつもと同じお茶の味がする。

そして翌日。
卒業式を終えた裕太は引っ越しトラックの助手席に乗り込んで行ってしまった。

最後までしみったれた挨拶はなにもなかったけれど、裕太らしいといえばそうなのかもしれない。

「お茶でも煎れましょうか」
「あぁ、そうしてくれ」
いつものようにソファに座り、昌子がお茶を準備する音を聞く。

昌子も少し寂しさを感じているのか、今日は表情が暗い。
こんなときこそ父親の威厳を示すべき時だろう。

家の中で暗い顔をしていられると、こっちまで気分が滅入ってくる。
「おい! まだか!」

「もう少し待ってくださいね」
昌子が顔をのぞかせて返事をする。

「お前、なんだその顔は。息子が家を出たくらいでそんな暗い顔するんじゃない!」
「はい。すみませんでした」

昌子は無理やり笑顔を浮かべると、またキッチンへと引っ込んだ。
ふぅ。
これで少しは家の中が明るくなるだろう。

女房は主人の言うことを聞いて、お茶と言えばお茶を煎れ、笑えと言えば笑うものだ。
「はい、お待たせしました」
昌子がお茶を運んできた。

すぐに一口飲む。
「いつもと違うな」

そう言うと昌子は少し驚いた顔をして、それから視線をそらすと「裕太が無事に卒業したから、い茶葉を出したんです」と、言った。
なるほど。

ひとまずお疲れ様というところか。
もう一口飲んだとき、舌にざらつく感触がした。