操り人形
男が人形使いになったのは男の父親も、そのまま父親も人形使いだったからだ。
男の家系は手先や指先が器用な者が多く、それを受け継いだことも要因のひとつとなった。
男が本格的に人形遣いの道を目指し始めたのは高校を卒業してからだったが、人形劇で演じる役柄はあっという間に人気になっていき、男が20歳の頃には主役を任せられるようになっていた。
「人形は生きているんだ。大切に扱うんだぞ」
一緒に人形劇をして全国を練り歩いている父親からは毎日のようにそう言い聞かされていた。
だけど簡単に主役を任されるようになった才能ある男からすれば、人形はただの人形。
そこに命を吹き込んでいるのは紛れもなくこの自分だという自負があった。
それでも父親は男にとって師匠でもある。
とても頭が上がらないので本人の前では「わかった」と、頷いて見せていた。
「ふぅ、今日も大盛況だったな」
毎回大きな会場を貸し切っての公演だけれど、チケットが売れ余ったことは1度もない。
沢山の観客の前で人形を操るのは緊張感があり、仕事が終わってホテルへ戻ってくると全身から力が抜けていく。
父親や祖父は帰宅するとすぐにカバンから人形を取り出して磨いたり、メンテナンスに余念がない。
だけど男はカバンを投げ出すとすぐにベッドに横になった。
人形はただの人形だ。
メンテナンスなんて週に1度やれば十分。
今は自分をいたわる時間だ。
そう思って目を閉じた。
男がネットで面白そうな人形を見つけたのはそれから一週間ほどすぎた頃だった。
その頃にはまた移動して、西日本を中心に仕事をしていた。
「糸のない操り人形?」
スマホをいじっていたときに偶然見つけた商品をいぶかしげに見つめる。
糸も紐もないということは、電池式だろか?
リモコン操作で動くとか?
画面に出ている人形は童話ピノキオに出てきそうな木製の人形で、女物の服を着せられている。
頭の髪の毛はかつらのようで、髪の長さを変えれば男としても女としても使えるみたいだ。
それは個人で商品を出品できる通販サイトで見つけた。
「ちょっと買ってみるか」
人形使いとしては次世代の操り人形を確認してみずにはいられなかった。
けれどそれはとんだデマだと気が付かされることになる。
「なんだよこれ、電池もなしか」
注文した人形がホテルに届いたのは二日後のことだった。
さっそく古びた箱から取り出してみたものの、人形はピクリとも動かない。
服の下にもスイッチや電池を入れる場所はなく、リモコンも付属されていない。
説明書もなければ、箱に書かれていた商品名も読み取れないくらい劣化が激しい。
かろうじて《操》と《人形》だけが読み取れたので、これが操り人形であることには間違いないと思う。
出品者に騙されたと気がついたけれど、今日も仕事が終わったばかりなので怒る気力も残っていなかった。
男は使い物にならない人形をゴミ箱に投げ捨ててベッドに横になった。
「ちっ。今日は人形のメンテンスする日か」
男が今日の日付を思い出して舌打ちをする。
男が決めていた週一度のメンテナンス日だったのだ。
「まぁいいか。また今度にしよう」
男は言い訳にするようにそうつぶやいて目を閉じた。
ガタンッと音がして目を覚ましたのは深夜2時頃だった。
普段はどんな物音でも気にせず朝までぐっすり眠るのだけれど、この日はどうしてか目が覚めた。
そして真夏だと言うのに部屋の中が寒くなっていることに気がついた。
「冷房を下げすぎたかな」
そうつぶやいて枕元のスイッチを押して電気をつけた、そのときだった。
ゴミ箱に投げ捨てた人形が床の上に立っていた。
その後方には倒れたゴミ箱がある。
「おいおい、どういうことだ?」
一瞬驚いたけれど、これが糸のない操り人形だったと思い出す。
「どういう仕組だ?」
ベッドからおりようとしたとき、人形が右手を上げた。
それに釣られて男も右手を上げる。
次に人形が右足を前に出した。
男も右足を前に出して、ベッドの下に置いた。
「どういうことだよこれ!」
男が叫ぶと人形がこちらに顔を向けた。
男も人形に顔を向ける。
ふたりの視線が合わさった時、人形がにやりとわらって自分の髪の毛を鷲掴みにした。
男も同じように自分の髪の毛を鷲掴みにする。
そして青ざめた。
「おい、やめてくれ!!」
男が人形使いになったのは男の父親も、そのまま父親も人形使いだったからだ。
男の家系は手先や指先が器用な者が多く、それを受け継いだことも要因のひとつとなった。
男が本格的に人形遣いの道を目指し始めたのは高校を卒業してからだったが、人形劇で演じる役柄はあっという間に人気になっていき、男が20歳の頃には主役を任せられるようになっていた。
「人形は生きているんだ。大切に扱うんだぞ」
一緒に人形劇をして全国を練り歩いている父親からは毎日のようにそう言い聞かされていた。
だけど簡単に主役を任されるようになった才能ある男からすれば、人形はただの人形。
そこに命を吹き込んでいるのは紛れもなくこの自分だという自負があった。
それでも父親は男にとって師匠でもある。
とても頭が上がらないので本人の前では「わかった」と、頷いて見せていた。
「ふぅ、今日も大盛況だったな」
毎回大きな会場を貸し切っての公演だけれど、チケットが売れ余ったことは1度もない。
沢山の観客の前で人形を操るのは緊張感があり、仕事が終わってホテルへ戻ってくると全身から力が抜けていく。
父親や祖父は帰宅するとすぐにカバンから人形を取り出して磨いたり、メンテナンスに余念がない。
だけど男はカバンを投げ出すとすぐにベッドに横になった。
人形はただの人形だ。
メンテナンスなんて週に1度やれば十分。
今は自分をいたわる時間だ。
そう思って目を閉じた。
男がネットで面白そうな人形を見つけたのはそれから一週間ほどすぎた頃だった。
その頃にはまた移動して、西日本を中心に仕事をしていた。
「糸のない操り人形?」
スマホをいじっていたときに偶然見つけた商品をいぶかしげに見つめる。
糸も紐もないということは、電池式だろか?
リモコン操作で動くとか?
画面に出ている人形は童話ピノキオに出てきそうな木製の人形で、女物の服を着せられている。
頭の髪の毛はかつらのようで、髪の長さを変えれば男としても女としても使えるみたいだ。
それは個人で商品を出品できる通販サイトで見つけた。
「ちょっと買ってみるか」
人形使いとしては次世代の操り人形を確認してみずにはいられなかった。
けれどそれはとんだデマだと気が付かされることになる。
「なんだよこれ、電池もなしか」
注文した人形がホテルに届いたのは二日後のことだった。
さっそく古びた箱から取り出してみたものの、人形はピクリとも動かない。
服の下にもスイッチや電池を入れる場所はなく、リモコンも付属されていない。
説明書もなければ、箱に書かれていた商品名も読み取れないくらい劣化が激しい。
かろうじて《操》と《人形》だけが読み取れたので、これが操り人形であることには間違いないと思う。
出品者に騙されたと気がついたけれど、今日も仕事が終わったばかりなので怒る気力も残っていなかった。
男は使い物にならない人形をゴミ箱に投げ捨ててベッドに横になった。
「ちっ。今日は人形のメンテンスする日か」
男が今日の日付を思い出して舌打ちをする。
男が決めていた週一度のメンテナンス日だったのだ。
「まぁいいか。また今度にしよう」
男は言い訳にするようにそうつぶやいて目を閉じた。
ガタンッと音がして目を覚ましたのは深夜2時頃だった。
普段はどんな物音でも気にせず朝までぐっすり眠るのだけれど、この日はどうしてか目が覚めた。
そして真夏だと言うのに部屋の中が寒くなっていることに気がついた。
「冷房を下げすぎたかな」
そうつぶやいて枕元のスイッチを押して電気をつけた、そのときだった。
ゴミ箱に投げ捨てた人形が床の上に立っていた。
その後方には倒れたゴミ箱がある。
「おいおい、どういうことだ?」
一瞬驚いたけれど、これが糸のない操り人形だったと思い出す。
「どういう仕組だ?」
ベッドからおりようとしたとき、人形が右手を上げた。
それに釣られて男も右手を上げる。
次に人形が右足を前に出した。
男も右足を前に出して、ベッドの下に置いた。
「どういうことだよこれ!」
男が叫ぶと人形がこちらに顔を向けた。
男も人形に顔を向ける。
ふたりの視線が合わさった時、人形がにやりとわらって自分の髪の毛を鷲掴みにした。
男も同じように自分の髪の毛を鷲掴みにする。
そして青ざめた。
「おい、やめてくれ!!」



