意味がわかると怖い話【解説付き】


夢の中で

「ちょっとどけてよ、邪魔なんだけど」
自分の席で本を読んでいた私に威圧的な声をかけてきたのはクラスメートのイツコちゃんだった。

イツコちゃんはクラスの中心的な子で、いつも4~5人の友達を従えている。
それだけならいいのだけれど、今みたいに大人しい子に威圧的な態度を取ることがあった。

「でも、ここ私の席なんだけど」
本から目を離しておずおずと言うと、イツコちゃんが睨んできた。

もともと細くてつり上がった目がさらに釣り上がり、まるでキツネみたいだ。
「なによ、私の言うことが聞けないの?」

イツコちゃんにすごまれて言葉を失ってしまう。
とりまきたちは私を見てニヤニヤと笑うばかりで、誰も助けてくれない。

「わかったよ」
私は渋々本を片手に席を立った。
イツコちゃんはつかさず私の机の上に座り、椅子に足を乗せた。

私の席は窓際の一番後ろだから、時々こうして席を奪われてしまう。

イツコちゃんグループが「ぎゃははは!」と下品な笑い声を出しているのを後に聞きながら、私は図書室へと移動したのだった。
「あぁ~、ほんっとムカつく!」

帰宅した私は自分のベッドに突っ伏してつぶやいた。
イツコちゃんグループは毎日毎日私のような子をターゲットにしては好き勝手している。

中には上靴を隠されたり、イツコちゃんに貸した教科書をなくされたりと、イジメみたいなことをされている子もいた。

「あいつ、マジで死んでほしい」
学校や親の前では絶対に口にしないような言葉がつい出てきてしまう。

だけどこれが私の本心だった。
あいつに不幸が訪れますように。
あいつが苦しんで死にますように。

そうやって願いながら寝れば、それが夢の中で現実になってくれる。
だから今回はこう願うことにした。

「私がイツコちゃんを殺す夢が見られますように」
うとうとし始めた頃だった、部屋のドアをノックする音が聞こえてきて私は目を覚ました。

夢はまだ見ていない。
「お風呂できたから、入りなさいよ」

顔をのぞかせたのはお母さんだ。
もう少しでイツコちゃんを殺す夢を見ることができるはずだったのにと、唇を尖らせながらお風呂へ向かう。
「最近調子はどう?」

途中、お母さんがそんな質問をしてきたので立ち止まってまばたきを繰り返した。

「平気だよ、なんで?」
「だってあんた、寝てる間に――」

そこまで聞いた時、不意に強い眠気がやってきた。
今ならすぐに眠れそう!
「ごめん。お風呂は明日の朝に入るから今日はもう寝るね」

私は最後まで聞くことなく、自室へと舞い戻ったのだった。
夢を見ていた。
夢の中でも時刻は夜で、あたりは真っ暗だ。

私は歩道に立っていて、周囲は街灯が灯っている。
その中を歩いているとき自分が右手に包丁を握りしめていることに気がついた。

今日は眠る前に自分でイツコちゃんを殺したいと願ったから、それが叶う夢を見ることができるんだ。

そう思うと心が浮き立った。
小学校低学年の頃の遠足を思い出す。
気がつけば私はイツコちゃんの家の前に到着していた。

同じ通学班だから、迷うこともなくここまで来ることができた。
庭へ回るとリビングの窓が開いていて、網戸が閉じられている。

冷房をつけるまで暑くないけれど、風が入ったほうが心地良い季節だからだろう。
私はそこから家の中へと侵入した。

イツコちゃんの家に入るのは初めてだったけれど、とりまきたちといつも大声で会話しているから、イツコちゃんの部屋がどこにあるかだいたい把握していた。

2階の一番奥の部屋。
そこがイツコちゃん自慢の自室になっているはずだ。
足音を殺してそこへ向かうと、ドアにイツコと書かれたプレートが出ていた。

ビンゴ!
心の中でガッツポーズを作り、ドアを開ける。

月明かりと常夜灯によって部屋の中は明るかった。
窓辺にベッドが置かれていて、布団がこんもりと盛り上がっている。

近づいていくとイツコちゃんが心地よさそうに寝息を立てていた。
その幸せそうな顔を見ていると、胸のムカムカが蘇ってくる。

夢の中でまで幸せだなんて許せない!
両手で包丁を握りしめて振り上げる。

月明かりが包丁をギラギラと輝かせていた。
朝起きると気分はとてもスッキリとしていて、でもなんだか体はとても疲れていた。

「あ~あ、今日も楽しい夢見れてよかった」
夢の中で自分の手でイツコちゃんを殺したことを思い出し、笑みが溢れる。
今日は1日いい気分で過ごせそう。

そう思ってベッドから上半身を起こしたときだった。
自分の両手が真っ赤に染まっていることに気がついた。

赤い液体は少しベタついていて、鉄の臭いがする。
「なにこれ」
顔をしかめてつぶやいたとき、お母さんがドタドタと足音を立てて部屋に入ってきた。

「ちょっと、ドアはノックしてよね」
咄嗟に布団の中に両手を隠すと、指先がなにかに触れた。

それは冷たくて、夢の中で触れていた包丁によくにた感触がする。
「落ち着いて聞いてね? 昨晩クラスメートのイツコちゃんがね」