値引きシール
午後4時を回るとそのスーパーでは値引きシールが貼られる。
五駅先に暮らしているトオコはいつもこの時間を狙って電車に乗り、夕飯の買い出しに来ていた。
「今日は冷凍の唐揚げも安いのね。じゃあこれとキャベツの千切りを付け合わせにして……あら、キャベツは高いのね」
半分にカットされたキャベツの値段は300円を超えている。
今年は野菜が不足しているということをニュースでやっていたのを思い出した。
それにしても高価だ。
でも唐揚げに野菜は必要だし……。
そう考えたとき、惣菜の割引コーナーに視線が向いた。
そこはすでに確認済で、家で作るのが面倒な惣菜はすでにカゴの中にある。
少しくらい、バレないわよね?
トオコは惣菜コーナーへ近づいていくと、三割引と書かれたシールを素早く剥がした。
そしてお目当ての半カットキャベツの前に戻ってくると、キャベツとカゴに入れたあと、こっそり三割引のシールを貼り付けたのだ。
「こちら三割引になります」
レジの店員は貼られたシールに疑問なく打ち込んでいく。
やった!
トオコは心の中でガッツポーズを作ったのだった。
帰宅の電車の中は帰宅ラッシュでスーツ姿の男女が増えていた。
トオコは荷物を網棚乗せて出入り口の横に立ち、外の景色を眺めながら電車に揺られていた。
駅で停車して目の前の扉が開いたときだった。
不意に後ろから腕を掴まれてギョッとして振り向いた。
そこには知らない男が立っている。
「なんですか?」
誰かと間違えて腕を掴まれたのだろうかと、トオコはいぶかしげな顔を相手に向ける。
すると相手は「はいこれ」と、10円玉を差し出してきたのだ。
トオコは咄嗟に手を出してそれを受け取ってしまった。
すると男はトオコの腕を掴んだまま電車を下りてしまった。
「ちょっと、何するの!?」
すぐに抗議するものの、電車は買い物袋を乗せたまま走り出してしまった。
「何って、あんたを買ったんだけど?」
「はぁ? 私を買ったですって? なにバカなことを言ってるの!?」
だいたい私は売り物じゃない!
トオコはキーキーわめきちらした。
だけど男は腕の力を緩めないし、他の人たちは助けてくれない。
駅員は笑顔で男性に会釈しているし、一体どうなっているのか……。
「あ、あなた!」
前から歩いてきた人物にトオコが声を上げる。
ちょうど電車に乗ろうとしていたトオコの夫がこの駅にやってきたのだ。
夫はトオコを見て嬉しそうな顔したけれど、それはすぐに消えていった。
隣の男を見て「購入されたんですか?」と、質問している。
男の方も「そうだ」とうなづいた。
「ちょっとあなた、なに言ってるの!?」
「気がついてなかったのか?」
トオコの反応を見て夫が驚いた表情になる。
そしてトオコの背中へ回ると、そこから一枚のシールを剥がした。
そこには【10円】と書かれている。
「お前は10円だったんだよ」
夫は残念そうに呟いたのだった。
午後4時を回るとそのスーパーでは値引きシールが貼られる。
五駅先に暮らしているトオコはいつもこの時間を狙って電車に乗り、夕飯の買い出しに来ていた。
「今日は冷凍の唐揚げも安いのね。じゃあこれとキャベツの千切りを付け合わせにして……あら、キャベツは高いのね」
半分にカットされたキャベツの値段は300円を超えている。
今年は野菜が不足しているということをニュースでやっていたのを思い出した。
それにしても高価だ。
でも唐揚げに野菜は必要だし……。
そう考えたとき、惣菜の割引コーナーに視線が向いた。
そこはすでに確認済で、家で作るのが面倒な惣菜はすでにカゴの中にある。
少しくらい、バレないわよね?
トオコは惣菜コーナーへ近づいていくと、三割引と書かれたシールを素早く剥がした。
そしてお目当ての半カットキャベツの前に戻ってくると、キャベツとカゴに入れたあと、こっそり三割引のシールを貼り付けたのだ。
「こちら三割引になります」
レジの店員は貼られたシールに疑問なく打ち込んでいく。
やった!
トオコは心の中でガッツポーズを作ったのだった。
帰宅の電車の中は帰宅ラッシュでスーツ姿の男女が増えていた。
トオコは荷物を網棚乗せて出入り口の横に立ち、外の景色を眺めながら電車に揺られていた。
駅で停車して目の前の扉が開いたときだった。
不意に後ろから腕を掴まれてギョッとして振り向いた。
そこには知らない男が立っている。
「なんですか?」
誰かと間違えて腕を掴まれたのだろうかと、トオコはいぶかしげな顔を相手に向ける。
すると相手は「はいこれ」と、10円玉を差し出してきたのだ。
トオコは咄嗟に手を出してそれを受け取ってしまった。
すると男はトオコの腕を掴んだまま電車を下りてしまった。
「ちょっと、何するの!?」
すぐに抗議するものの、電車は買い物袋を乗せたまま走り出してしまった。
「何って、あんたを買ったんだけど?」
「はぁ? 私を買ったですって? なにバカなことを言ってるの!?」
だいたい私は売り物じゃない!
トオコはキーキーわめきちらした。
だけど男は腕の力を緩めないし、他の人たちは助けてくれない。
駅員は笑顔で男性に会釈しているし、一体どうなっているのか……。
「あ、あなた!」
前から歩いてきた人物にトオコが声を上げる。
ちょうど電車に乗ろうとしていたトオコの夫がこの駅にやってきたのだ。
夫はトオコを見て嬉しそうな顔したけれど、それはすぐに消えていった。
隣の男を見て「購入されたんですか?」と、質問している。
男の方も「そうだ」とうなづいた。
「ちょっとあなた、なに言ってるの!?」
「気がついてなかったのか?」
トオコの反応を見て夫が驚いた表情になる。
そしてトオコの背中へ回ると、そこから一枚のシールを剥がした。
そこには【10円】と書かれている。
「お前は10円だったんだよ」
夫は残念そうに呟いたのだった。



