声
いつものように玄関の呼び鈴を鳴らすと家の中からここでひとり暮らしをしている20代前半のお姉さんが出てきてくれた。
「コノちゃんこんにちは。今日はどうしたの?」
「お母さんがなぞなぞの本買ってくれたの! お姉さんに問題出してもいい?」
「あら面白そう。さぁ、入って」
家は古い平屋で、お姉さんの祖父母が建てたものらしい。
その祖父母は今は施設に入り、お姉さんの両親は海外赴任しているからその間お姉さんはここでひとりなんだそうだ。
お姉さんとコノちゃんが出会ったのはひと月前、隣の空き地でバドミントンをしていたら、その羽根がお姉さんの家の屋根に上がってしまったことがきっかけだった。
その頃はまだお姉さんが暮らしていると知らなかったから、怖い人が出てきたらどうしようとビクビクしながらチャイムを鳴らした。
出てきてくれたのがとてもキレイな女の人だったから、コノちゃんは驚いて立ち尽くしてしまった。
それからお姉さんは時々コノちゃんと顔を合わせるようになり、挨拶したり、お菓子をもらったりする間柄になった。
今ではこうして家にお邪魔するときもある。
「下が大水、上は大火事なぁんだ?」
「ふふっ。懐かしいなぞなぞが書かれてるのね。正解はお風呂でしょう?」
「お姉さんすごい! なんでわかったの?」
「この家のお風呂も下は大水、上は大火事になるような昔のお風呂だからなの」
お姉さんはなぞなぞが得意で、本に書かれているなぞなぞはほとんど答えてしまった。
気がつけばすっかり夕方になっている。
「じゃあ、またね!」
コノちゃんが外へでると外はとても冷えていて、雪がチラチラと降り始めていた。
コノちゃんは寒さから逃れるように早足で家に向かったのだった。
次にコノちゃんが空き地へ遊びに行ったのは日曜日の昼のことだった。
この前の寒波が嘘みたいに今日はとてもあたたかい。
もうすぐ春がやってきそうな雰囲気がある。
空き地で友達とバドミントンをしていると強い風がふいて羽がふわりと舞い上がった。
それは隣の家の屋根にポトンッと落ちる。
「あ! どうしよう」
「大丈夫だよ。取ってくるから待ってて!」
コノちゃんはそう言ってお姉さんの家へ向かった。
いつものようにチャイムを鳴らして少し待つと「はぁい」と、家の奥からお姉さんの声が聞こえてきた。
「お姉さん! バトミントンの羽が屋根に落ちちゃったの!」
「その声はコノちゃんね? それならハシゴを使っていいから、自分で取れる? 今ちょっと手が離せないの」
忙しそうなお姉さんに変わって、コノちゃんは物置小屋からハシゴを取り出した。
前回もそうやってお姉さんが取ってくれたから、物の場所がわかっていたのだ。
「お姉さん、羽取れたよ! ありがとう!」
「いいのよコノちゃん。またいつでもいらっしゃいね」
優しいお姉さんの声が、なんとなく切なく聞こえてコノちゃんは首をかしげた。
だけど空き地で待っている友達のことが気がかりになって「もちろん、また来るよ!」と、答えて家から離れたのだった。
その夜のことだった。
「それでね、羽が家の屋根に飛んじゃってね」
コノちゃんがお姉さんとドア越しに会話したときのことを話すと、急にお父さんお母さんの顔がけわしくなった。
「お姉さんと話をしたって、本当かい?」
「本当だよ。でもお姉さん今日は忙しくて家から出てこなかった」
「そうか……お父さんはコノの話を信じるよ」
お父さんの隣ではお母さんが少し目に涙を貯めている。
「どうしたのお母さん?」
「コノ、驚かないでね? あそこのお姉さんは昨日の夜から入院しているのよ」
「え? どういうこと?」
「お風呂場で倒れているのを、近所の人が発見したんだって。あの家は古いから、冬の寒さが原因で血管が切れたんだって」
「なにそれ、そんなの信じないよ!」
だって、昼間お姉さんと会話をした。
あの声は聞き間違いなんかじゃなかった。
「だからね、お姉さんはきっとコノに最期の挨拶をしたんじゃないかって、お母さんは思うの」
「最期の挨拶って、そんな」
コノちゃんが悲痛な声を上げたとき、お父さんのスマホに電話がかかってきた。
「お姉さんの知り合いの人からだ」
電話を取ったお父さんの顔が、悲痛に歪んだ。
いつものように玄関の呼び鈴を鳴らすと家の中からここでひとり暮らしをしている20代前半のお姉さんが出てきてくれた。
「コノちゃんこんにちは。今日はどうしたの?」
「お母さんがなぞなぞの本買ってくれたの! お姉さんに問題出してもいい?」
「あら面白そう。さぁ、入って」
家は古い平屋で、お姉さんの祖父母が建てたものらしい。
その祖父母は今は施設に入り、お姉さんの両親は海外赴任しているからその間お姉さんはここでひとりなんだそうだ。
お姉さんとコノちゃんが出会ったのはひと月前、隣の空き地でバドミントンをしていたら、その羽根がお姉さんの家の屋根に上がってしまったことがきっかけだった。
その頃はまだお姉さんが暮らしていると知らなかったから、怖い人が出てきたらどうしようとビクビクしながらチャイムを鳴らした。
出てきてくれたのがとてもキレイな女の人だったから、コノちゃんは驚いて立ち尽くしてしまった。
それからお姉さんは時々コノちゃんと顔を合わせるようになり、挨拶したり、お菓子をもらったりする間柄になった。
今ではこうして家にお邪魔するときもある。
「下が大水、上は大火事なぁんだ?」
「ふふっ。懐かしいなぞなぞが書かれてるのね。正解はお風呂でしょう?」
「お姉さんすごい! なんでわかったの?」
「この家のお風呂も下は大水、上は大火事になるような昔のお風呂だからなの」
お姉さんはなぞなぞが得意で、本に書かれているなぞなぞはほとんど答えてしまった。
気がつけばすっかり夕方になっている。
「じゃあ、またね!」
コノちゃんが外へでると外はとても冷えていて、雪がチラチラと降り始めていた。
コノちゃんは寒さから逃れるように早足で家に向かったのだった。
次にコノちゃんが空き地へ遊びに行ったのは日曜日の昼のことだった。
この前の寒波が嘘みたいに今日はとてもあたたかい。
もうすぐ春がやってきそうな雰囲気がある。
空き地で友達とバドミントンをしていると強い風がふいて羽がふわりと舞い上がった。
それは隣の家の屋根にポトンッと落ちる。
「あ! どうしよう」
「大丈夫だよ。取ってくるから待ってて!」
コノちゃんはそう言ってお姉さんの家へ向かった。
いつものようにチャイムを鳴らして少し待つと「はぁい」と、家の奥からお姉さんの声が聞こえてきた。
「お姉さん! バトミントンの羽が屋根に落ちちゃったの!」
「その声はコノちゃんね? それならハシゴを使っていいから、自分で取れる? 今ちょっと手が離せないの」
忙しそうなお姉さんに変わって、コノちゃんは物置小屋からハシゴを取り出した。
前回もそうやってお姉さんが取ってくれたから、物の場所がわかっていたのだ。
「お姉さん、羽取れたよ! ありがとう!」
「いいのよコノちゃん。またいつでもいらっしゃいね」
優しいお姉さんの声が、なんとなく切なく聞こえてコノちゃんは首をかしげた。
だけど空き地で待っている友達のことが気がかりになって「もちろん、また来るよ!」と、答えて家から離れたのだった。
その夜のことだった。
「それでね、羽が家の屋根に飛んじゃってね」
コノちゃんがお姉さんとドア越しに会話したときのことを話すと、急にお父さんお母さんの顔がけわしくなった。
「お姉さんと話をしたって、本当かい?」
「本当だよ。でもお姉さん今日は忙しくて家から出てこなかった」
「そうか……お父さんはコノの話を信じるよ」
お父さんの隣ではお母さんが少し目に涙を貯めている。
「どうしたのお母さん?」
「コノ、驚かないでね? あそこのお姉さんは昨日の夜から入院しているのよ」
「え? どういうこと?」
「お風呂場で倒れているのを、近所の人が発見したんだって。あの家は古いから、冬の寒さが原因で血管が切れたんだって」
「なにそれ、そんなの信じないよ!」
だって、昼間お姉さんと会話をした。
あの声は聞き間違いなんかじゃなかった。
「だからね、お姉さんはきっとコノに最期の挨拶をしたんじゃないかって、お母さんは思うの」
「最期の挨拶って、そんな」
コノちゃんが悲痛な声を上げたとき、お父さんのスマホに電話がかかってきた。
「お姉さんの知り合いの人からだ」
電話を取ったお父さんの顔が、悲痛に歪んだ。



