いやいや、今までが異常事態だったんだよね。

 みんなだって、やらなくちゃいけないことがたくさんあるはずなのに、時間を割いて、わたしの特訓に付き合ってくれていたんだから。

 これで、みんな日常に戻れるんだ。

 寂しい気持ちにふたをして、みんなに笑顔を向ける。


「わたし、絶対に合格するよ」


 みんながしてくれた特訓を、ムダにしたりしない。


「ああ。絶対合格するって信じてる」

「がんばれー、心愛ちゃん」

「心愛ちゃんなら、きっとできる」

「大丈夫です。自分を信じてください、心愛さん」


 みんなからのエールを受け取って、しっかりと心に刻む。

 大丈夫。寂しいけど……これはお別れなんかじゃないんだから。


 実習室を出ていくシロくんたちのうしろ姿を見送っていると、ぴょんぴょん楽しそうに飛び跳ねながら、最後に実習室を出ようとしたイチゴくんのポケットから、なにかがぽろりと落ちた。


「あ、待って、イチゴくん。なにか落ちたよ」

 そう声を掛けながら、落とし物に手を伸ばそうとして——途中でぴたりと止まる。


 え……どうして、これをイチゴくんが……?


 わたしが拾うより前に、慌てて戻ってきたイチゴくんが、ぱっと手を伸ばし、それを拾う。


「ごめんねー。ありがとう、心愛ちゃん」

 ニコッと笑ってそれをポケットに押し込むと、他のみんなを追ってイチゴくんも実習室をあとにした。