スイーツ王子は甘くない⁉

 視線を感じて、ぴたりと手を止める。

 扉の方をぱっと見たけど……やっぱり誰もいない。


 は~~、またか。

 でもそういえば、視線を感じるの、久しぶりな気がする。


「心愛さん、どうしました?」

「ううん、なんでもない」


 まあ、特に危害を加えようって思ってるわけでもないみたいだし。

 もう、気にしない!


 気を取り直して、もう一度お抹茶に集中する。


「いいですね。そうしたら、茶筅をもう少し上げ、ゆっくり振って、キメの細かい泡に整えていきましょう。——そう、上手ですね、心愛さん」

「えへへっ、ありがとうございます」

「そうしたら、中央に泡を盛り上げるようにして、静かに茶筅を上げてください。『の』の字を書くようにするといいですよ」


 泡を盛り上げるように、『の』の字を書いて……っと。


「できました! どうですか」

「うん、いいですね」

 にっこり笑うと、いつの間にかアズくんの傍らに置かれていたお皿を、わたしの前に差し出した。


 お皿の上には、お餅がふたつ乗っている。


「では、問題です。どちらが関東風の桜餅でしょう?」


 ひとつは、表面がブツブツした生地で餡が完全に包み込まれていて、丸くてころんとした形をしている。

 もうひとつは、まあるい平たい生地で、餡をくるくるっと巻いたもの。


 どちらも塩漬けの桜の葉で巻いてあるところは同じだ。