スイーツ王子は甘くない⁉

「とにかく、勉強だけはおろそかにしないこと。いいわね? これだけは、約束してちょうだい」

「う、うん。わかった」

「それにしても、懐かしいわねえ。お母さんも昔やったものよ。湯煎でチョコレートを溶かして、型に流し込むのよね」

「へ、へぇ~、お母さんもやったことあるんだ」


 そうだけど、そうじゃないの。

 わたしね、今、テンパリング中なんだ。

 ツヤのある滑らかな口溶けのチョコレートを作るのに必要な作業なんだよ。

 だから早くかき混ぜないと……っていうか、氷水につけっぱなし!!


 ハッと気づいて氷水から出したんだけど……。


「ウソ、固まっちゃってる⁉」

「あら、氷水? なにやってるの、心愛。それじゃあ、チョコレートは溶けないわよ?」

「そ、そうだよね。間違えちゃった。あはははは」

 わたしが笑ってごまかすと、お母さんは苦笑いしながらダイニングを出ていった。 


 はぁーー……。せっかく今までで一番うまくいってたのに。

 もう一回最初からやり直し。

 うぅっ、泣きたい……。


 しかも、転科試験のことがお母さんにバレるのが怖くて、とっさにごまかしちゃった。

 もし合格したら、言わなきゃいけないのに。

 わたし、本当にお母さんたちを説得できるのかな。

 自信なくなってきちゃった……。