スイーツ王子は甘くない⁉

 ふわぁ~。

 一歩中に入った瞬間、全身がチョコレートの甘い香りに包まれる。

 ショーケースの中に並んでいる一口サイズのボンボン・ショコラの他に、お店の中ではフォンダンショコラやショコラテリーヌなんかも食べられるみたい。


 フォンダンショコラが運ばれてきたばかりのお客さんがナイフを入れた瞬間、チョコレートがあふれ出し、小さな歓声が上がる。

 うわぁ~、おいしそう……!


「なにをしている。さっさと座れ」

 クロくんの少々苛立った声に我に返ると、クロくんは二人掛けのテーブル席に座っていた。


 慌ててクロくんの前の席に腰掛けつつ、頭の中では財布の中身のことばかり考えてしまう。

 お買い物に行くつもりだったから多少は持ってきたけど……ここ、絶対に高いよね?


「あら、彼女連れだなんて珍しい」

 親しげな声がして、声の方を見ると、長い髪をうしろでひとつにまとめ、白のコックコートにお店のイメージカラーのダークブラウンのエプロンをまとった女性の店員さんが、わたしたちのテーブルのすぐ横に立っていた。


「……彼女なわけないだろ」

 クロくんが、うんざりしたような口調で返す。

 そんなつれない態度のクロくんにも、店員さんは明るい笑顔を絶やさない。


 えーっと……お知り合い?


「もう、そんな冷たい言い方したらかわいそうでしょ。それで、なににするの?」

「こいつにフォンダンショコラ食わせてやって。俺は、いつものヤツ」

「はいはい」

 そう返事をすると、店員さんはお店の中へと戻っていった。