スイーツ王子は甘くない⁉

 静かに実習室の前まで戻ると、ドア窓からそっと中を覗く。

「あ……」

 調理台の前にクロくんが立っているのが見える。

 温度を確認しながらボウルの中のチョコをゴムベラでかき混ぜ、わたしが放棄したチョコレートのテンパリングを続けている。

 その真剣な顔つきに、思わず目が吸い寄せられる。


「クロはさ、チョコをすごく愛しているんだよ。その愛が大きすぎるところが玉にキズなんだけどね」


 うん。わたしにも伝わってくる。

 クロくんが、誠心誠意チョコレートと向き合ってるっていうのが。


 じっと見つめていたら、クロくんが、ふっと顔を上げた。

 目が合った途端、眉間にシワが寄り、目つきが険しくなる。

 観念して実習室の扉を開け、中に入ったけど、入り口のところで足が止まってしまう。


「そこでなにしてる。早く来い。特訓をしたいと言ったのはウソだったのか」

「う……ウソじゃ、ないです」

「だったら、手を洗ってさっさと代われ」

「……はい!」

 シロくんの方をチラッと見ると、にっこり笑ってうなずいてくれた。


 クロくんからゴムベラを受け取ると、ボウルの中のチョコレートと再び向き合う。


「……あれっ?」

 なんだか、さっきわたしが部屋を飛び出したときよりツヤっとしてるような……。


 棚の方に行っていたクロくんが、材料の袋をいくつか抱えて戻ってきた。


「テンパリングがとれているかの確認」

「あ……は、はい!」


 クロくんの指示に、あたりをキョロキョロと見回す。

 手近にあったパレットナイフの先端にチョコをつけてみて、2、3分で固まればOK。


「はい、大丈夫です!」

「なら、型にチョコを流し込んで、飾り付け」


 あ、これって……。