スイーツ王子は甘くない⁉

 わたしの両親は、二人とも弁護士っていうお仕事をしていて、毎日とっても忙しそうなんだ。

 当然お菓子作りをするような時間もなくて、我が家にはお菓子作りの道具なんてなにひとつない。

 お菓子は、作るものじゃなくて、買ってくるもの。

 多分、そう思ってる。


 それにわたし自身も、小学校の頃から毎日塾や習い事が忙しくて、お菓子作りをしている余裕なんて全然なかった。

 両親は、口に出しては言わないけど、わたしにも弁護士のお仕事をしてほしいって思っているみたい。

 でもね、弁護士になるには、すっごく難しい試験に合格しなくちゃいけなくて。

 そのためには、これからもずっとずっとたくさん勉強しなくちゃいけない。

 なったあとも、「一生勉強が必要だ」ってよく言っていて、両親は家でも時間を見つけては難しそうな本を読んでいる。


 暗い顔をして事務所に来た依頼人さんが、明るい顔で帰っていく。

 それが、弁護士っていうお仕事のやりがいなんだって、いつも両親は言っている。

 わたしも、すごくステキなお仕事だなって思ってる。


 思ってるけど……弁護士じゃなくても、みんなを笑顔にできるお仕事って、たくさんあるんじゃない?

 たとえば……そう、パティシエとか。


 今のわたしが、まさにそう。

 とってもおいしそうなスイーツを目の前にして、自然と頬が緩んじゃう。

 学校であったユウウツな出来事だって、一瞬で吹き飛んじゃう。

 そんなスイーツを作れる人になりたいな……なんて。


 言えないよ。