スイーツ王子は甘くない⁉

「えっと、あの……したいなって、思っているんですけど……」

 そう言いながら、顔がどんどんうつむいていく。


「ご両親にはちゃんと相談したのか?」

「いえ、まだ……です」

 消え入りそうな声でわたしが言うと、篠森先生が大きなため息を吐いた。


 そっか。ちゃんとお父さんとお母さんに許可をもらわなくちゃいけないんだ。

 そうだよね。勝手に転科なんかしたら、きっとものすごく怒られる。

 ……したいって言っただけで怒られそうだけど。


「春風は、特進科にトップ合格できるだけの実力があるんだぞ。悪いことは言わん。スイーツ科に行くより、特進科にいるべきだ。春風のご両親は、たしか弁護士だったよな? ご両親も、春風がその道に進むことを望んでいるんじゃないのか?」


 その通りすぎてなにも言い返せないよ。


「——それって、その子の意志が全然入ってなくないですか?」

 低くて淡々とした知らない男子の声が、突然わたしと先生の会話に割り込んできた。


 少しだけ顔を上げて声の主の方を見ると、白いブレザーの裾が目に入る。


「なんだ、君は。こちらの会話に勝手に口を挟まないでもらえるかな」

 篠森先生が、非難めいた声で言う。


「大人は『なりたい自分を自分で見つけろ』って口では言いながら、すぐに自分たちの意見を押しつけようとする。そんなことばっかしてるから、その子みたいに自分の意志とは違う進路を選んでしまうんですよ。それを修正するための制度が、転科制度なんじゃないんですか?」

「っ……」

 その男子の言うど正論に、思わず篠森先生が黙り込む。


「すみません。余計な口を挟みました」

 篠森先生に向かって深々と頭を下げると、その男子はくるりと踵を返した。