「ほら、『クロくん』もなにか言ってあげれば?」

 琉生先輩の言葉に、クロくんがとっても面倒臭そうな表情を浮かべたあと、ゆっくりと重い口を開く。


「……がんばれ」

「えー。それだけぇ?」

「…………似合ってる。これで満足か、おまえら。……って、なんでおまえは泣いてんだよ」


「あーあ。涼真がまた女子泣かしてるー」

「いつものことだけど、かわいそー」

「ちゃんと責任取りなよ、涼真」

 そんなことを口々に言いながら、琉生先輩たちはわたしとクロくんをその場に残して行ってしまった。


「ご、ごめんなさい。泣くつもりはなかったんですけど……」


 でも、どうしても考えちゃって。

 シロくんたちにも、見てほしかったな……って。


 慌てて涙を拭っていると、頭の上に、大きな手がぽんと乗せられた。


「大丈夫。きっと見てる、心愛のこと」

「……はい」


 クロくんは、やっぱりなんでもお見通しなんだね。


 涙を拭うと、クロくんにニコッと笑って見せる。


「行ってきます」

「ああ。がんばれよ、心愛」

「はいっ!」


 クロくんと別れると、わたしは一年生用の調理実習室の扉を開けた。


「は……はじめまして、春風心愛です。今日から、よろしくお願いいたします!」



(了)