キーンコーンカーンコーン……。
一時間目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴るのと同時に、黒いブレザーを脱ぎ捨てる。
廊下を走……りそうになるのを必死に堪え、わたしは足早に廊下を進んでいった。
「おっ、今日からだっけ?」
西側のスイーツ科専用校舎に入ると、階段をおりてきた男子たちに声を掛けられた。
「はいっ! ついに今日からです」
「君、よく先生たちを説得できたね」
「それだけスイーツへの愛が深いってことでしょ。……いや、違うか?」
そんなことを言いながら、琉生先輩がちらっと視線をうしろに向ける。
「なぜ俺の方を見る」
小さくため息を吐くクロくん。
「べっつにー?」
「ピッカピカのコックコート。いや~初々しいねえ」
「……伊吹、言ってることがおじさん」
「うるさいよ、琥太郎」
そう! 今日からついにスイーツ科の実習科目を受けられることになったんだ。
転科試験に合格してから、担任の篠森先生と学年主任の先生、それに両親とわたしの五人で、何度も話し合った。
予想通り、特進科に残るよう全員でわたしを説得しようとしてきたけど、わたしは最後まで諦めなかった。
「特進科の勉強もちゃんとします。だから、スイーツ科の実技科目の受講許可をください。お願いします!」
まさに、二兎を追う覚悟を決めたんだ。
「『春風ルール』、だな。特進科での成績も落とさないこと。それが条件だ。わかったね?」
篠森先生には、そう言って何度も念を押された。



