まあ、結果としてはチョコの特訓中に、また泣かせてしまったわけだが。


 一人で特訓しているときの楽しそうな様子を思い出したら、自己嫌悪に陥らずにはいられなかった。


 これはあとから彼女に聞いたのだが、本当はあのとき、一人きりではなかったのだという。

 自分にお菓子の特訓をしてくれていた男子たちがそこにいたのだと。


 ひょっとしたら、彼女のただの妄想だったのかもしれない。


 それでも、俺以外のヤツにはあんな笑顔を見せていたのに、俺といるときは怯えさせたり泣かせたりしてばかりだったのかと思うと、余計に落ち込む。

 サイアクだ。


 由香里さんの店に彼女を連れて行き、真正面で彼女の笑顔を見て。

 俺はこの顔が見たかったのだと、素直に思った。


「——母さん。また店に連れてくから。心愛のこと」


 はじめて由香里さんのことを『母さん』と呼ぶと、母さんは驚いた顔をしたあと、うれしさを隠し切れないといった笑みを浮かべた。