スイーツ王子は甘くない⁉

 その後、俺の成長に合わせ、由香里さんの指導は本格的なものになっていった。

 期待されていると思うと、うれしさと同時に、うまくできない自分に苛立ちが募っていった。


 このままでは、由香里さんのそばにいられなくなるかもしれない。

 そんな不安に襲われることもあった。


 まあ、あの人のことだから、俺がチョコ作りをやめたところで、なんら態度を変えることはなかっただろうが、一度裏切られた経験のある俺にとって、それは恐怖でしかなかった。


 だが、そんな俺にも転機が訪れた。

 とある小さな女の子との出会いだ。


 公園で泣いていたその女の子のことがどうしても放っておけず、俺が作ったトリュフチョコレートをひとつ分けてやった。

 失敗作ではあったけど、食べられないわけじゃない、というような代物だ。


 それなのに、「おいしい」と笑顔で言ってくれた。

 泣いていた女の子が、俺のチョコを食べて元気になってくれたんだ。


 ああ、チョコってこんなふうに人を笑顔にできるものなんだ。

 だったら、もっともっとたくさんの人を笑顔にできるものを作りたいな。


 そんなふうに思うようになった。


「なんだか吹っ切れたみたいね」


 由香里さんにそう言われたのも、そのへんの時期だったかもしれない。


 俺は、勝手にその女の子のことを恩人だと思うようになっていた。

 そしていつか、もっともっとおいしいチョコを作れるようになったら、また食べてほしい。

「おいしい」って笑ってほしい。

 そう思っていた。