「ぼくを弟子にしてください!」
最初に【Chocolaterie blanc et noir】の門を叩いたのは、今から六年くらい前だったか。
店長の由香里さんは、一人で店を訪ねた俺に、とても驚いていた。
そりゃあそうだ。小二のチビが、一人で電車に乗って店まで行ったんだから。
由香里さんは、俺の義理の母——父親の再婚相手だ。
実母は、浮気をして、俺と父さんを置いて出ていった。
女なんかキライだ、もう信用するもんか、って思ってた。
「すぐ帰ってくるから、いい子で待っててね」
そう言って家を出ていった実母が、俺の前に姿を現すことは二度となかったのだから、そんなひねくれた性格の子どもに育ったって、おかしくはない。
だけど、根っからの陽キャで、いつだって太陽のように明るく、楽しいことが大好きな由香里さんに、気づいたら俺は心惹かれていた。
多分……初恋だった。
まあ、最初から実らない恋だったんだけど。
それでも、少しでもそばにいたくて、弟子入りを志願したんだ。
こんな邪な理由でチョコ作りをはじめたなんて、アイツ——心愛には恥ずかしくて言えるわけがない。
それに、『チョコレートの修行』なんて言ったらカッコよく聞こえるかもだけど、実際のところ、最初は正直遊びみたいなもんだった。
多分、由香里さんの邪魔にしかなっていなかっただろう。
それでも文句ひとつ言わず俺を受け入れてくれた由香里さんの偉大さに、今になって気づかされる。



