「そういえば、ご両親の説得はできそうか?」

 クロくんが話題を変える。


 うん。これについては、ずっと考えていたんだ。

 すんなり説得できるとは到底思えないし、先生にだってきっと反対される。


 それに、わたし自身も……実は、この前の男の子と出会ってから、ちょっとだけ迷ってる。

 わたしにちゃんと知識があれば、あの男の子をちゃんと助けてあげられたのかなって。

 もっと、勉強したいなって。


 つまり、スイーツも作れるようになりたいし、弁護士になるための勉強もしたい。

 こんなの、まさに『二兎を追う者は一兎をも得ず』ってなりそうだけど、今からそれを諦めちゃって——どっちかに絞っちゃって、本当にいいのかなって。


 わたしはぎゅっと手の中のプラバンを握り締めると、ゆっくりと口を開いた。


「今は……ちょっとだけ欲張ってみたいなって思ってます。スイーツも作れるようになりたいし、誰かを助けられるような人にもなりたい。だから、どっちの勉強もしたいんです。その気持ちを、両親にもちゃんと伝えたいなって思ってます」


 こんなことをクロくんに言ったら、『本気でスイーツ作りがしたいわけじゃなかったのか』って怒られそうだけど、これが、今の本当のわたしの気持ちだから、クロくんには知っていてほしいって思ったんだ。


「そうか。ちゃんと伝わるといいな、心愛の気持ち」

 クロくんの声がとても優しくて、心強くて、ぎゅっと胸が苦しくなる。


「はいっ!」


 ああ、わたし……やっぱりクロくんのことが、好きだ。