スイーツ王子は甘くない⁉

「とは言っても、すでに心愛はここに随分出入りしているしな。今さら感はあるが……。どこか見てみたい場所はあるか?」

「えっと……そうだ! わたし、まだ教室を見たことがないので、教室に案内していただけますか?」

「教室? 特進科となにも変わらないと思うが」

 首を傾げつつも、実習室を出て廊下を歩いていき、一番近い階段をのぼりはじめる。


 正直どこでもいいんだ。クロくんと一緒にいられるなら。

 わたしが知らないうちに、突然消えていなくなってほしくないから。


「……店長が、また心愛を連れて来いってうるさくてな」

 前を向いて歩きながら、クロくんがぼそぼそと言う。

「時間があるときにでも、また付き合ってもらえるか?」

「へ⁉ えっと……また行ってもいいんですか? でも、お仕事のお邪魔になるんじゃ……」

「大丈夫だよ。あの人、俺の母さんだから」

「へぇ~、おかあ……お母さん⁉」


 お母さん……ってことは、お母さん……なんだよね?

 なあんだ。

 そっか、そっか。お母さんだったんだ。

 よかったぁ。


 ……うん? よかった?

 よかったって、なにが?


 え、ち、ちょっと待って。

 そんなこと言ったら、わたし……。


「ああ。だから、遠慮はいらない。むしろ、友だち連れてこいってうるさいから、来てくれたら……まあ、俺も助かる」

「えっと、その……わたしじゃなくて、もっと親しいお友だちを誘ったらいいんじゃないですか?」