スイーツ王子は甘くない⁉

 階段を五階まで駆け上がる。


 五階の501号室、五階の501号室……。


 呪文のように、頭の中で唱え続ける。


 あそこへ行けば、きっとクロくんに会える。

 お願い、クロくん……!


 501号室の手前で足を止めると、ドキドキする胸を押さえ、何度か深呼吸する。

 よしっ。

 気合いをひとつ入れ、ドア窓から中をそっと覗く。


 ……いた!

 いるよ。ちゃんといる。

 よかったぁ。


 だって、人間なんだから。

 当たり前だよ。消えたりするわけがない。


 わたしの視線を感じたのか、クロくんがふっとわたしの方を見る。

 一瞬目を見開いたクロくんが、扉に向かって歩いてくる。


「結果が出たんだな?」

 扉を開けたクロくんが、開口一番わたしに尋ねる。


「はいっ。合格しましたっ!」

「そうか。よかったな」

 はぁ~と大きな安堵のため息を吐いたクロくんが、優しい笑みを浮かべる。


 あまりにもレアなものを目の当たりにして、心臓がドクンッと大きく跳ねる。


「チョコを盛大にダメにしたときは、どうなることかと思ったが。よく一人でここまでがんばったな」

「い、いえ、全部クロくんたちの特訓のおかげです。そ、そうだ、他のみんなにも知らせてきますね」

 心臓のドキドキがクロくんにまで聞こえてしまいそうで、クロくんに向かってぎこちなく笑って見せると、わたしは階段に向かって慌てて駆け出した。


「他のみんな……?」

 クロくんがなにかつぶやいたみたいだったけど、その声がわたしの耳に届くことはなかった。