「失礼しました」


 転科試験から一週間後の、金曜日の放課後。

 職員室の扉を閉めると、おもいっきりガッツポーズ!

 手もとの書類の『合格』の文字を、もう一度穴が開くほど見つめる。


 夢じゃない……よね?

 本当に受かったんだよね?

 そうだ。早くみんなにも知らせに行かなくっちゃ!


 スイーツ科の校舎に向かって、足早に歩きはじめたとき。

 みんなが実習室を去っていくうしろ姿をふっと思い出して、足が止まる。 


 まさか……あれが最後だったなんてこと、ないよね?

 キュッと合格証書を持つ手に力が入る。


 ううん、そんなはずない。

 これからは、授業は別々だけど、同じ校舎のどこかの教室でがんばっているはずのみんなのことを思いながら、わたしはわたしでお菓子の勉強をするの。

 そうだよ。だから、早くみんなに報告に行こう。


 スイーツ科の校舎の廊下を走り、ひとつひとつ実習室を確認していく。


 いない。ここにもいない。


 放課後の、しんと静まり返った校舎の中に、わたしの足音だけが響く。


 もう帰っちゃったのかな。

 帰っちゃったのなら、明日もう一度報告に来よう。


 ……そうだ!

 この前一度だけ訪れた、五階の実習室。

 ひょっとしたら、あそこにクロくんがいるかもしれない。