はやく行きたいばかりに、隼太くんの腕を引っ張って行く。
「七瀬、そんな急がなくても逃げないから。また転ぶよ?」
「でも、気になるから! 移動書店なんて滅多に見かけないんだよ!? これは急ぐしかないよ!」
「本になると性格変わるねお前」
呆れたような声が聞こえたけどそんなのお構い無し。
それよりも、貴重な移動書店に巡り会えたんだから。
書店にはない珍しい本があったりするんだよね。
海外から出版されてる恋物語とか!
広げられる本の表紙をひと通り見ていくと、1冊だけ惹かれたものがあった。
「お嬢ちゃん、それに目をつけるとは中々の本好きだね? それはフランスから出版された希少なやつだよ」
声をかけてきたのは移動書店のおじさんで、あらすじとか説明されたけど頭に入らなくて…。
私が必要な知識、今すぐにでも読まなければならない使命感のようなものがあってものすごくご縁のある本だと思った。
タイトルは『美女と獣』
タイトルに獣と入っているからかもしれないけど…
「じゃあ、それ俺が買う」
「え?大丈夫だよ」
「お仕置きのお詫びってことで」
私からひょいっとその本をさらって、お会計に持っていってしまう。
連れてきてくれただけでも嬉しいのに、今が幸せでこの後、本当の隼太くんを見ることになるなんてこの時の私は思わなかった。


