歩いていた足を止めて、一瞬考える素振りをしたけどすぐにまた歩き出して答えた。
『愛を知らない』
愛ってものすごく重みがある言葉だけど、みんな無意識のうちにどこかしらで触れていると思う。
わかりやすいのだと男女で愛し合うとか…
それだけじゃなくて、親が子の成長を見守り支えてくれるとか
困難な状況を協力して乗り越えるとか
相手の幸せを願うとか挙げれば沢山あるけど、それらは全て“愛”の定義に入る。
「これは俺から言えないというか、俺もほんのわずかしか知らないけど隼太クンは想像を絶する過去を持ってて、今もトラウマを抱えてる」
「輝くん達もトラウマがあるの?」
「隼太クンほどではないけど、まあ…そうだね。俺たちは親に見捨てられたから愛を知る術がなかったと言った方が正しいかも」
今度は私が足を止めた。
輝くんは振り向いて、私の頭に手を置きながら視線を合わせる。
「そんな悲しい顔しないで?今の俺たちはなあちゃんの存在に救われてるから」
寂しいとかの表情でも、いつものように仮面を被ったかのような笑顔でもなく本当の輝くんがそこにいた。
優しいお兄ちゃんのような安心感があって、泣きそうになってしまう。
「ほら、隼太クンが待ってるから急ご?」
「うん」


