この恋は、終わらないと思ってた

「春瀬、どうした?」


 先輩に声をかけられて、私は現実に戻った。


「いえ……なんでもない、です……」


 こんなにもわかりやすい反応をしてしまったら、先輩は納得しないだろう。


 だけど、私がそれ以上踏み込んでほしくないということが伝わったのか、先輩はただ「そっか」としか返さなかった。


 それから先に先輩が言っていた通り、私はご馳走になり、店を出る。
 外はすっかり、日が暮れていた。


「先輩、今日はご馳走様でした」
「いえいえ。春瀬、家はここから近いの?」
「はい」
「じゃあ、送ってくよ。まだ明るいけど、夜だからね」


 先輩は、どこまでも優しかった。
 そこまでしてもらうのは悪いと断ろうと思ったけど、正直、今は一人でいたくなかった。


 それなのに、お互いに話題を探す間は無言の時間になってしまって、どうしてもさっきの凌空の投稿のことを考えてしまう。


 どうして、ずっと動かしていなかったのに、急にあんな投稿をしたんだろう。
 私とは縁を切りたいって、暗に言ってるのかな。
 だとしたら、なにも言わずにフォローを外したらいいのに。
 私から外せってことなのかな。


 それとも、私のことなんて忘れちゃった?


「春瀬?」


 ぐるぐると思考の迷路に入ってしまっていたのを、また先輩の声により、抜け出した。
 その瞳は、私の身になにがあったのかを心配しているように見える。


 もう、甘えてしまいたかった。


 私の足はその場に止まる。


「教えてください、先輩……元カノとの繋がりがあるアカウントで、新しい恋人との写真を投稿する理由って、なんですか……」


 先輩を困らせる。
 そうわかっていても、もう心に溜めていた声が溢れて止まらない。


「私、忘れられないんです。二人で行った場所とか、会話の内容とか、笑いかけてくれた表情とか、全部、全部、全部。私の耳にはまだ、凌空の声が残ってるんです」