この恋は、終わらないと思ってた

 金髪の先輩は、たぶん、ただそこにいるだけで目立つ。
 そんな先輩が女子を引っ張って歩いているのだから、もっと目立つ。


「あの、先輩、手……」


 私が声をかけると、先輩は振り向いた。
 そして手元を見る。


「おっと、ごめん」


 気にしていたのは、私だけらしい。
 それだけ、異性に慣れているということなのかもしれない。


 この世界で、私は生きていけるだろうか。


 そんな不安に襲われながら、先輩の背中を追う。
 さっきは落ち着いた金色に見えていたのに、夕日に照らされたことによって、それはとても眩しく感じた。


「そう言えば、名前聞いてなかったよね。俺は真城(ましろ)千翔」
春瀬(はるせ)です……春瀬美音(みお)
「おっけ、春瀬ね」


 ただ名前を教えただけなのに、先輩は満足そうな笑みを浮かべた。


 これは確かに、女子からの人気を集めそうだ。


 そして歩くこと五分。
 到着したのは、中華料理屋さん。
 外見からはそこがお店だとはわからないけれど、暖簾があることから、間違いなくお店なんだとわかる。


「ここの麻婆豆腐、めちゃくちゃ美味いんだよ」


 先輩は得意げに言いながら、引き戸を開けた。
 中に入ると、店員さんが暖かく迎え入れてくれる。
 先輩とのやり取りを聞いていると、先輩がよくここに来ることがわかった。


「春瀬、こっち」


 店内に見惚れていると、先輩に手招きで呼ばれた。


 四人掛けのテーブル席。
 私は先輩の前に座った。
 こうして先輩の視線から逃げられない場所に来ると、変に緊張してしまう。


「春瀬、好きなもの頼んでいいよ。俺のおごりだから」


 先輩はそう言いながら、メニュー表を渡してきた。


「え……」


 改めてしっかりと言われると、さっきのは冗談ではなかったのだと思った。