この恋は、終わらないと思ってた

 美音って、優しく呼んでくれた声も、まだ、忘れられない。


 別れて三ヶ月が経とうとしているけれど、まだ。
 私の心には、ずっと凌空がいる。


「でも……凌空の中には、もう私はいない……」


 その事実が、耐えられなかった。


 先輩のことなんて気にせず、ただ思うがままに本音を言ってしまったから、先輩を困らせてしまっていると、空気で伝わってきた。


 こんなことで迷惑をかけるなんて、私、なにやってるんだろう。


「……ごめんなさい、急に変なこと、言っちゃって……」
「春瀬、まだ時間ある?」


 言葉のキャッチボールができていない。
 予想外の言葉が返ってきて、私は、先輩が迷惑だと感じていないのだと知った。


「ちょっとだけ付き合って」


 やっぱり、先輩は強引だ。
 戸惑う私の手を引いて、辿り着いたのは先輩と出会った場所。


 こんな夜に学内に来たのは初めてで、悪いことをしているような罪悪感と、なにがあるのだろうという期待感が、入り交じっている。


「見て、春瀬」


 先輩は右手の人差し指で遠くを指した。
 私はその指に操られたかのように、視界を動かす。


 そこには、ライトアップされた桜の木があった。


「綺麗……」


 夕焼けに染まる桜も美しかったけれど、闇の中で人工的な光に照らされた桜も、綺麗だ。


 私はただただ、その光景に目を奪われた。


「ねえ、春瀬。ここでカップルっぽい写真撮ろうよ」
「……え?」


 先輩の口から出てくるのは突拍子のないことばかりで、私は間抜けな声を返す。


 隣に立つ先輩は、桜を見上げている。
 その横顔からは、なにを考えているのか、全く読み取れない。