君を思うと、胸がぎゅっと痛くて

まだ仕事が残っているというアキを置いて、私は診察室を出た。
名残惜しかった。
悔しかった。
未来の私が、私よりアキのことを知っていて、信じていることも悔しかった。

「でも……今の私だけにできること……」

それは何だろう?

『あげないよ』

未来の私にそう言われたって、私もアキが好き。
お医者さんで守ってくれるからでもない。
お父さんのお墓の前で告白してくれたからでもない。
ディズニーで私に魔法をかけてくれるからでも、なくて。

ただただどうしようもなくアキが好き。
口が悪くて、不器用で、なのにまっすぐで。
私のために全部捨ててタイムトラベルなんてしてきちゃうアキが好き。

「アハハ! やばいって会長、さすがに白衣似合わなすぎです!」

奏たちがいる資料室に行くと、笑い声が漏れて聞こえてきた。
何となく、すぐに入れなくて背を向いてドアの横に立つ。

「そんなに笑わなくていいだろ。ほら、じゃあ陽菜も着てみろよ」

「はる兄、助けてぇ。会長が虐めてくる! 陽菜は一生白衣なんて着ないし。てか病院なんて金輪際関わらないで生きてくの」

「へぇ、じゃあ陽菜は将来、何になるの?」

「超絶イケメンのお嫁さん兼アイドル♡」

「はっ何だそれ」

「奏、陽菜これ割りに本気で言ってんだよ」

「マジかよ……はる兄の妹なのに……」

そろそろ入ろうかな。
でも陽菜が奏と話す様子を見たら、幸せそうでどうしても邪魔したくない気持ちになって。
あと少しだけ。

「陽菜ははる兄さんが誰と結婚するかの方が気になる!」

「お、自分も興味あるっす。彼女とかいるんすか?」

「……今は居ないよ。でも、何となく僕は結婚する気がする。一人で生きていくようなタイプじゃないし、結婚するような人は独占したくなるし」

「はる兄、結構イケメン素質ある〜!」

そこで、はる兄は陽菜を抱きしめながら言った。

「愛してる人の笑顔も、泣き顔も『俺だけに見せて』って思うんだよな」

「ひゃあ〜はる兄! ガチでそのキメ顔は落ちるから」

「いや、陽菜それはおかしいだろ」

「奏もやられて見ればわかる」

はる兄は両手を広げて、奏をうけいれようとする。

「いやいや、はる兄、俺はいいよ。でもなんか意外。はる兄さんみたいな人でもそんなこと考えるんだなって」

「そりゃ恋愛だけは理屈通じないだろ」

「そうだけど。もっと淡白かと思ってた! はる兄も将来苦労しそうだね」

「ははっ、そうかもな」

はる兄さんに選ばれるような人はきっと幸せになるに違いない。
そう思うと、胸があたたかくなった。