君を思うと、胸がぎゅっと痛くて

聴診する。
白衣のアキは少しだけ凛として見える。
けれどアキはアキだ。
いつものようにアキは真剣な顔をして、胸の音を聴いている。

「どう?」
「うん、悪くないよ。最近ちゃんと薬も飲んでるし」
「よかった。夏休みになったら、陽菜と奏と海に行きたい」
「いいよ」
「夏祭りと花火大会も」

すると、アキは黙ったまま腕を組んだ。

「そっちは俺とがいい」
「ぷっ、なにそれ、嫉妬?」
「俺だってさゆを独り占めしたい」
「未来の私とそういうの、たくさん経験してきたんじゃないの?」

アキは何も言わずに、ぎゅうと抱きしめてきた。
消毒液の匂いがする。

「関係ない。俺が見てるのは今目の前にいるさゆで、俺が欲しいのは、この世界のさゆだ」

「でも、ずるい。わ、私だって、未来で……アキのお嫁さんとしての記憶がほしいっ……うっ」

すると胸が急に痛くなる。
まるでぎゅうっと掴まれたみたいに。
そして聴こえる。

『あげないよ』

それはとてもとても強い声で。
揺らぐことさえ、許してくれない。

「おい、さゆ! 大丈夫か?」

アキは慌てて、私を聴診したけれど異常はないと言った。

「いま声が、聴こえたの」

「え?」

「多分未来の……アキが元いた世界の私の声」

「なんて言ってたんだ」

そのままの言葉を伝えてもきっとアキには伝わらない。
だから私は伝わってきた強いイメージを、言葉に置き換えてみた。

「『私のことを諦めないで。私は大丈夫。私は生きてる』そういう声だった」

「さ、ゆ……」

アキ先生はただ愕然としていた。

「そこに、いるのか……?」

私の胸に手を伸ばすアキ。

「居るんだよ。アキ。ここに、生きている」

「さゆっ!さゆ、さゆ。生きてる……」

アキは泣いていた。
だから私は震えるアキの手をとり、自分の胸に重ねた。
そうしなければいけない気がしたから。

ーーここにいる、まだ14歳の私は、生きることを諦めていた。
すべてをなくす準備をしていた。

なのにーー未来の私は諦めてない。
今もここに居て、こんなにも胸がぎゅっと痛む。