君を思うと、胸がぎゅっと痛くて

陽菜も私もお互いに奏への本当の気持ちをさらけ出して、すっきりした気持ちで階段を降りていく。
陽菜と繋いだ手のひらが、あったかくて。

「私さ、男の子だったら陽菜と付き合ってた。一番好き。陽菜といるとさ、自然と笑顔になれる」

「陽菜も! さゆが一番好きだよ。でもね、きっと恋って、知らない自分を思い知っていくことなんだよ。切ないのとか、苦しいのとかも全部合わせて恋なんだと思う」

「……そうだね。もしこの気持ちがすっきり説明できるなら、それはもう恋じゃない」

「奏会長はさゆが好きだよ。まっすぐにずっとずっと前から。それでもさゆが大事だから、アキ先生のことが好きなさゆのことも思い続けてる」

「ほんと、甘えてる。私サイテーだよね」

私が俯くと、陽菜は立ち止まって、両手をぎゅって握る。

「そんなことない! さゆは愛されるべき人だよ。陽菜はそう思う」

「うぅ、ひなぁ……」

涙があふれてくる。
なんでこんなに優しいの、こんなに私のこと分かってくれるの。
陽菜だって、奏のことが好きなのに。
独り占めしたっていいのに。

「陽菜が奏会長が好きだって自覚したとき、もうこうなることは決めてた。死ぬまで隠していこうって」

「それでも心までは嘘つけないよね。奏の今日の夢を聞いたら心が叫び出しちゃったんだよね。だから私に伝えてくれた。好きだって」

「うん。陽菜は奏会長の声を聞くだけで、心が弾む。嬉しくなる。あの夢を聞いたとき、大好きだって気持ちがあふれた。それでも、どうしたって奏会長が好きなのはさゆだよ……」

陽菜は、まだ気づいてない。
世界は無限の可能性に満ちていること。
時間は通りすぎていくこと。
そうしたら気持ちだって変わっていくこと。
私は気が付けた。

ーーそうだよ。俺は未来から来た。そこはさゆが大人になるまで生きている世界線。その世界での夫はーー俺だよ。

アキが私にそう打ち明けてくれた日に。
きっと、いつかは出会える。本当に大好きな人に。
愛すべき人に。

「私は私にできることをやる。だから陽菜も諦めないで。奏が好きなら絶対に離さないって私に証明してみせてよ」

「うう、さゆぅ……」

私たちは、まだ14歳で。
迷いさえ、青くていいんだ。
何もかもが不確かな世界で、心だけは君に向いていた。