君を思うと、胸がぎゅっと痛くて

「はる兄さん、僕まですみません」

奏ははる兄の車に乗ると、なんか他人行儀で偉そうなとこがなくて、ちょっと笑った。

「いんや、ちょっと見ない間に奏もでかくなったなぁ。今身長何cm?」
「165位? かな」
「え、そんなに!?」

私がびっくりすると、奏は私を見て鼻で笑った。

「やーいチービ」
「は? 150cmはあるし」
「会長レディーにその言い方はないよぉ」
「陽菜は結構高いよな、何cm?」
「160位かな」
「みんな、大きくなったなぁ」
「はる兄、みんなでまとめないで!」

はる兄は微笑ましそうに車を運転してる。

「奏は進学先、もう決めたんだろ?」
「はい、南高で特待生推薦もらってます」
「超進学校の特待生かよ。俺もそこOBだけど、特待生にはなれなかったよ」
「はる兄の年はたまたま頭いい人が集まってたんじゃないっすか」
「ハハ、すごい慰めてくれんのな。で、将来有望の特待生君の夢は?」

すると、いつもハッキリしてる奏が珍しくモゴモゴして、なかなか答えない。

「……何だ照れてんのか」
「てか、中学のうちから進学先まで決めてる奴、少ないと思いますよ」
「そうか? 俺はもう医者になるって決めてたけど」
「それはだって可愛いこの陽菜様のためだもんね♡はる兄♡」
「ハハ、そうだな」
「奏にはさゆがいるじゃん」
「何言ってんの、はる兄!」

私がはる兄をバシって叩くと、はる兄は痛いんだがーとのほほんとしている。私と奏の将来に何の関係もないし!

「……はる兄、笑わない?」
「絶対笑わないよ」

あ、もう決まってたんだ。奏の将来の夢。
私も決まってないのに。
てか、決める必要とかないんだけど。

「……研究する人……」
「何の?」
「……薬の! さゆや陽菜の病気治せる薬」
「なにそれ最高じゃん」

はる兄は世界一優しい声で言った。
私と陽菜は互いに目を合わせて、ちょっとだけ泣きそうになったから。どちらかともなく、手を握った。

「奏ならできるよ。僕、その薬医者として使える日、ずっと待ってるから」
「ありがとう、はる兄。お前たちも笑うなよ」
「笑わないよ……会長、陽菜も待ってるから。ね、さゆ?」

それでも、私には”待っていられる時間”はもう無くて。
ここで本当のことを言うほど、残酷にもなれなくて。
だけど、一つだけわかった。
奏には絶対に絶対に生きていてほしい。
私の代わりに死ぬなんてこと、私が絶対にさせない。

だからーー

「その未来、私が守るよ」

奏に通じなくたっていい。
ありのままの私の気持ち全部、奏に伝えた。