奏を押しのけてガバって起き上がる。
奏も立ち上がって、そろそろ行こうかと葉っぱを払った。

「こんなとこ、誰かに見られたら学校中の噂になりますよ。奏会長」
「公認カップルってことで、そりゃあ本望だなぁ」
「ぷっ奏ってほんと。そういうの気にしないよね」
「気にしてどうすんだよ? 人生は一度きりだぞ。後悔する時間が惜しいんだよ」

風が吹いた。私の髪を、スカートを揺らした。
もし、その一度きりだと信じてる人生が、世界が、いくつもあったら?
だってアキはそこから来た。
そしてここは、貴方が死んじゃう世界なんだよ。奏ーー

「奏、隠してたくないから、ちゃんと言いたいことある」
「ん? なに?」
「私、この夏休みが終わった頃にはもうほとんど動けなくなっちゃうみたい。そしてねーー次の春には……」
「さゆ! もういい、今は言わなくてもいいから」

奏が手を握ってきた。
自分の手が震えてることに気がついた。
いつか貴方のあのぬくもりが、貴方の心臓の音が、私の胸に鳴る日がくるの?

「ごめん。奏、ちゃんといつか話すから」
「ううん。それよりさ、この夏のことを沢山話そうぜ。陽菜とも遊ぶんだろ?」
「うんっ陽菜と3人でも遊びたい!」
「どこがいい?」
「え〜、海とか」
「いいな、それ。行こうぜ」
「あ、奏。水着のこと考えたでしょ」
「健全な中学生の発達レベルくらいには考えてた」

べしって叩く。
キモ、ってわざと冷たく言う。
奏は笑ってた。