君を思うと、胸がぎゅっと痛くて

あーーキスするのかなと、思った。
だって、全部初めてだから。
合図とかあるの?
そういうの分からない。
ただ、私はそっと目を閉じる。

「ばーか。かわいすぎだろ。こういうのはちゃんと俺だけが好きだって言ってからにしてくれ」

奏は私の瞳から流れた涙の雫を優しく撫でて、すくってくれた。
私が目を開けると変わらない真剣な眼差しがそこにあった。

「奏が好きーーって言いたい……でも私ずるい女だよね」

アキの顔がよぎる。
アキの声が聴こえる。
”生きていて欲しい”
その為には目の前にいる奏の命を差し出さなきゃいけない。

「いいんだよ」

心の声が聞こえていたみたいに、奏は言った。

「ずるくていい。それに、俺がまださゆの一番に届かないならこれから塗り替えればいい」
「そんなの、ずるい!」
「そうだよ。俺だってずるい。さゆはあの人のことが好きなんだろ。アキ先生」
「……うん」
「知ってた、ずっと。それでも俺はさゆがすきだよ。俺がどんなにさゆを愛しているか、ちゃんと伝えてそれでさゆが振り向いてくれなくても……震えるほど愛してる」

奏は言葉の通り、私を上から震えるほど強く抱きしめた。

「なぁ? 聴こえるだろ俺の心臓の音」
「うんバクバクいってる」

私も奏を抱きしめ返した。
振動で伝わる奏の鼓動。
まるでこの震えが好きって泣いてるみたいで、苦しかった。